ドロドロのベッタベタ

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ドロドロのベッタベタ

 その時、おっさんは嬉しそうに言った。 「うん♡相変わらず、何て可愛いんだ俺のメス蛇ママちゃんは♡もうゾクゾクしちゃうぞ♡今日のヒットルアーは銀黒ラメラメだ♡司祭の前じゃなくてここでしちゃおう♡んー♡」  何というか、釣りアホ的なおっさんがキスをねだっていた。 「んー♡チュ♡チュ♡ンキュウ♡ああ♡ベルサイユ宮殿で式を挙げるのは、日本人女性の夢の1つでしゅ♡真琴は幸せの絶頂のただ中にいましゅ♡」 「ポリニャックもデュバリーも、お前の前では霞むな♡どいつもこいつも南フランス辺りの田舎のポテト臭い女にすぎん。俺の錠前は常にオープンだ♡今日に日記に「何もありませんでした」などとは到底書けんな。まあそもそも日記なんかつけてないんだが。なあ真琴♡快漢(ガイヤール)道楽者(パイヤール)の間には、何があるのかな♡?」 「今降魔さんが持っているグラスと、小さなテーブルがあるだけでしゅ♡」  グラスとテーブルを放り投げる音と、何かが壊れる音がした。  その弁償金だけで億単位の金が吹っ飛びかねなかったが、おっさんはどこ吹く風だった。 「その概念は、たった今1つになった。俺は真琴の愛の奴隷だ。全てはおっぱいから始まるんだ♡このプリプリフワフワのIカップおっぱいから♡心の底から愛しているぞ真琴♡ベルサイユ宮殿のバロック建築に、愛の赤い雨を降らせちゃうぞ♡誰も抵抗するなっつって、無抵抗のまま市民に殺されたフランスの衛兵のように、結末に向かって突き進む覚悟も出来た♡」  フランスの歴史的含蓄めいた、けったいな物言いがあった。 「まあしゅてき♡そのお言葉を聞いただけで、真琴は弟ちゃんをその場で出産してしまい、即次の子を受精着床してしまいそうでちゅ♡愛していまちゅ♡愛しゅるパパ♡」  赤ちゃん言葉でエロ嫁も猥語を口にしていた。  多数のサクラと、仲のいい友達とマスコミが犇めく中、空気を読もうとしない馬鹿夫婦は、バイトの司祭に向かって歩いて行った。  友達の中には、モルディヴの大統領やブータンの国王夫妻が、サクラの中にいたのはサタニストやペイガニスト、その辺にいた妖精達だった。  雑踏警備をやらされた者の中には、知り合いの妖精社会の長等がいたりもしたが、生憎テレビには映っていなかった。 「雑踏警備頼むぞ?奉行お前」  よく解らないことを、勘解由小路は言っていた。  妖魅達に祝福されて、2人はドロッドロの熱い抱擁と、口づけを交わしていた。  テレビには、式次第を済ませた勘解由小路に、群がる大量のマスコミのマイクを向けていた。  コミックヒーローが、式やるから見物に来いと言ったら、こうなっていたといっていい。 「うん?式を挙げるのは、これで13回目かな?イマイチ縁起がよろしくないから、次はどっかでまた挙げる。息子には協力をお願いするしかない。まあ凄い可愛かったんだが。息子も娘も。流紫降ー!碧ー!愛してるぞお前等ー!まあうちの子撮っても無駄だけどな?落ち武者オリバーカーンが凄い出張しちゃっているし」  ぎゃーとかオーウとかって悲鳴も凄かった。主にデジカメで撮影していると。 「あああ、ちなみに金はキチンとポケットマネーで払ってるからな?俺はどっかに行ったみたいな元ニッサンじゃないし」  何か、しらーっとした空気が流れていた。  ところで息子は凄い数のカメラに群がられていた。 「どっこい俺は考えていた。カトリックとプロテスタント、どっちで式を挙げようかって。でもなあ、フランスだぞ?ナントナントの排泄王なんかチョクチョク宗派変えまくってたおっさんだしな?変装したって臭いでバレバレだし。挙げ句の果てに扉開けたら「う、シュリーあれを見ろ」ってなるし。ああ床に転がってたのはマルゴの死体な?母さんってのは禁句で」  何のこっちゃいなって空気が続いていた。 「まあそう言う訳でだな。俺は造物主なんておっさん相手に愛を誓うことは永遠にない。クイーン・エーゲの時と一緒だ。俺を異端者扱いするのは勝手だ。だがあえて言おう。知るか。だ。もしくはレック・ミッヒイム・アルシュ(俺の尻を舐めろ)だ。特にナントナントのおっさんの全く拭いてない尻を。絶対嫌だろ。俺だって嫌だし誰だって嫌だ」  けったいなワールドが続いていた。 「正直な話をすると、見ろ、このマコドレスを。凄い可愛いだろ?これ見たいし脱がせたいから式を挙げていうるというのがホントのところだ。でもコスプレ趣味って訳でもない。真琴は何も着てない方がいいに決まってる♡んー♡」  カメラの前でチュッチュしている国辱者の姿があった。  ちなみに、勘解由小路の名前は、世界の注目を嫌が応にも集めていた。  要するに、コミックヒーローの登場に、世間は大いに湧いていたのだった。世間はヒーローを常に求めていた。非高潔な精神は疑うまでもないが。 「っていうか、嫁さんさっきから旦那の手え握って、何してんでゲスか?」  記者の1人から質問が上がったが、誰の発言か確認するまでもないだろう。  この馬鹿もそうだが、どいつもこいつもどうやって出国したのか。  何遍でも言うが、日本の祓魔官は、簡単に国外に行けないって、決まりがあるんだが。 「ずっと左の掌に、指で字を書いてるんだ。何て書いてあるか?ああ「愛してる」だ。最初っからずっと書いてる。どうだ、可愛いだろ?ちょっとというか、かなりサイコ気味だが。俺の銅タン嫁ちゃんは。ああちょうどいい。俺の背中見てみろ」  くるりと振り返った日本の恥の体現者の背中には、MAKOTOと刺繍がされていた。 「どうだ。ワールドワイドだろう?小鳥(たかな)――そこの馬鹿、マジックテープ剥がしてみろ」  悲鳴に近い歓声が上がった。  マジックテープが止めていた生地がゾロリと垂れ下がり、大きな嫁の写真が生地にプリントされていた。 「愛がタングステンみたいにど重い奥さんだろう。家に帰ると、俺のぬいぐるみが2百数十体あって、揃って俺を見下ろしているんだ。ゾワッとしたあと、どこまでも幸せな気持ちになった。彼女への愛の証として、生命保険に入ったんだ。俺が死んだら、ロイズから130兆支払われるんだ。ドルでだぞ?毎月ロイズに50万ドル払ってるしな。まあロイズの奴は俺の大学時代の知り合いだったんだが、「本気か?こいつ」って顔してたな。あれだ、アイスランドのあとだった」  例のANTOKU様事件ね。  それから、どんどん話題がホラーじみてきていた。 「彼女はあれだ。お腹がどんどん大きくなって益々可愛くなってるだろ?え?子供の性別は、勿論男の子だよ。坊主だ。次男てことになるな。まだ病院には行ってないけどな?いるのが解れば簡単だぞ?陽の気があった。うん、簡単だよ見分けるのは。じゃあそろそろ行かせてくれ。ああ?まあいいじゃないかあっちは。俺が口出すようなことじゃないだろ?生まれた時百鬼の卦が出たんだしょうがないだろうに。百鬼姫が次次代の帝になるのは当然だろう。認めん奴など知るか。どうせ低所得の、生きていても特に意味のない奴だけだそんなのは。問題発言?それこそ知るか。真琴♡愛してくれてるのは痛すぎるほど解ったから、顔を上げてインタビューに応えてあげてくれ。世のキモ童貞共は、お前のお顔が見たくてウズウズしているんだ♡」  問題発言を繰り返しすぎている、地上最低の国家公務員は、配偶者にこう言いやがった。 「改めて愛していましゅ♡降魔さん♡カッコよすぎて、心がどうにかなってしまいそうでしゅ♡そこの貴女、CNNの人。今私の降魔さんに、瞳でサイン送ってましたね?このメスが。私の愛する降魔さんに近付く者は、誰であろうと容赦しません」 「おいちょっと、モノクル外すのは待って。待ってってば。以上だ。これから俺達は、最高の愛に満ちた空間で、チュウチュウペロペロし合うんだ。邪魔する奴は斬獲するからな?」  馬鹿馬鹿しくなって、私はテレビを切った。
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