男の空間で

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 いきなり始まったストリングスのデュオ。  まあ、インプロビゼーションはジャズやってれば、割と普通だし。  静也は、エフェクターを踏み、更に音を歪ませていた。  どうやら、ライルの好みはジャズというより、ティンバーロックに近かった。  あれかな?フランスのシュブ・ニグラスとかかな?  ああ。ダニエル・デュニのユニベル・ゼロか。  静也は、ヒュー・ホッパーからクリスチャン・ラモンに変わって、重厚かつ浮遊強めなリフに終始していた。  このまま、更にリフが激しさを増すかと思われたのだが、永平寺帰りの舎監、元道玄希(もとみちげんき)に「夜にうるせえぞギャンギャンギャンギャン!7尺土掘り捨てるぞゴラああああああああああ!」と叱られたので中断されたのだった。  まあ、よかったぜ中々。タバコに火を点けて、ライルは言った。 「あのー、寮でタバコは」  あ?ああまあなあ。言ってタバコを消した。 「ああそうだ、お前等、まだガキだったんだっけ?」  普通にそうですが、貴方は? 「俺?とっくに大人。高校は、通い直しな?」  そうですか。 「あの、ライルさん」  ん? 「チェンバーロック、お好きなんですね?」 「まあな」 「さっきのサウンドは、ユニベル・ゼロでした。ダニエル・ドゥニの」  チェンバーロックというジャンルは、ジャズロックや、それに連なる系譜で、室内楽をメインにした、バロック・ロックとも言われている。 「まあ、お前、ユニベル・ゼロっていうか、アーカムっぽい音出してたな?」 「そうです。アーカムは、ダニエル・ドゥニが、ソフト・マシーンに影響を受けたサウンドだと記憶しています」  アーカム。例の勘解由小路のブログによると、69年、イギリスに渡ったダニエル坊やが、裸でドラムを叩いてチャーチャー言っていたロバート・ワイアットに憧れて、オラ(たづ)もやってみんべえか。ってなったジャズロックバンドだった。  チャーチャーって何だろう?そもそも。 「それより、ライルさん、勘解由小路さんとは」 「ん?まあ、聞きてえのか?俺と師匠のクソ話だが」  はい。静也は真っ直ぐ答えた。
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