角山(ウパ山)流星の秘密の恋 前編

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角山(ウパ山)流星の秘密の恋 前編

「ねえ、絶対に秘密だよ」 「秘密なの? どうして?」 「だってそんなのどうしてもっ!」 「分かったよ。僕と君、二人の秘密の約束だね」  私は古い古い約束……、遠い遠いあの日の思い出の言葉を大切にしてる。     ◇◆◇  ゆらゆら揺らぐ水面。  太陽の粒子は丸いなないろ粒。  青空が見たいな。  そよぐカーテン越しの外界(がいかい)の光は、柔らかいけれどもどかしい。  水槽からの眺めはいつもと同じ。  水やガラスをとおす世界は、どこか滑稽で歪んでいる。  誰もいない科学室には、私のいる水槽以外には飼われている生き物はいない。  生物部には亀とかメダカとかいるけどね。  今日は空は穏やかに晴れ渡っているのだろう。  大きな天気の崩れはないと思われます。  現在私の桃色の体には低気圧から受け取るビリビリとした電気みたいな刺激は起きないから。  一学期の中学校。  もうすぐ夏、もうすぐ期末試験だって子供達がソワソワ浮足立っている。  ここは授業とクラブ活動が無い時間はとっても静かだわ。  遠くの音楽室から笛の音と合唱する歌声が聴こえ、校庭からは体育をしている生徒達の歓声が時々上がる。 「はあ、退屈だわ」  早く「ウパ山先生」が来ないかしら?  私を甲斐甲斐しく世話してくれるのは「ウパ山先生」なの。    この中学校で女子生徒や先生に超絶大人気のイケメン角山流星先生のあだ名が「ウパ山先生」よ。  顔よし、性格よし、スタイルよしの超イケメン。  アイドルかモデル張りに格好良いのに何故か科学の先生をやってる「ウパ山先生」は、自分がイケメンなのに鼻にかけてないところがすごく良いと思うの。  あだ名の由来は、モテモテ人生に疲れた「ウパ山先生」が、癒やしを得ているのが科学室で飼っているウーパールーパーの私、だったから。  私は、ウーパールーパーの「ルー子さん」っていうの。  私一人しかいない水槽からはコポコポと水の循環器の音がする。  そして、私の呼吸音と泡の弾ける僅かな音。  いつも「ウパ山先生」が隅々まで丁寧によく掃除してくれるから、ありがたいことに私の棲み家の水槽は故郷の珊瑚礁の海みたいに透き通っているの。  えっ?  今、ちょっとおかしいぞ、ちょっと待てよ? と疑問に思った方は大正解よ。  ウーパールーパー、またの名をメキシコサラマンダーもしくはメキシコサンショウウオは、海ではなくメキシコの湖や遠い外国の運河に元々生息していたらしいのよね。  ここは日本の中学校の科学室の窓際近く。  私の元々の棲み家が海であるはずがないと思ったのなら、あなたはウーパールーパーに詳しい素晴らしい人ね。  私の大好きな「ウパ山先生」みたいに。  でも、私は特別なウーパールーパーだから大海原が故郷なのよ。  どう特別なのか、知りたい?  それは後で分かるかもしれないわよ。  ウフフ。今はまだ、教えられないわね。  ――だって「ウパ山先生」に誰よりも一番先に私の秘密を教えてあげたいから。  彼、びっくりしちゃうかな〜?  私の秘密を知って驚く「ウパ山先生」の顔が早く見たいわ。  彼は科学の先生だけど、担任は持っていないから、給食を食べる時間とその後の5時間目までの自由時間(フリータイム)は、科学室に居てくれることが多いの。  私は「ウパ山先生」のお話を聞くのが、大大だ〜い好き!  外の世界のこと、海のこと、科学のこと、それから「ウパ山先生」の子供時代の思い出や家族のお話とか、たくさん。  私には「ウパ山先生」の話すお話が毎日の楽しみなんだ。  たまに話す初恋のお話にはちょっと妬けちゃうけれど。  科学室の白いカーテン越しの陽射しはどんどん暖かい。  気温上昇ちゅう。  ほんの少し開けられた窓からは僅かばかりの風が入り込んでくる。  のどかね〜。  眠たくなってきたわ。  ちょっとお昼寝でもしようかしら? 「ルー子さん、僕はもう疲れた〜」  あら?  まだ給食の時間には早いのに、「ウパ山先生」が来たわ!  わ〜い!  会えて嬉しい。  ……でもなんだか「ウパ山先生」は元気がなくって、お疲れのご様子。  ルー子はとっても心配だわ。 「僕はね、彼女はまだいらないんだ」  はいはい、知っていますよ。 「あの子に会えたら、分からないけどね」  国語のフェロモンむんむんの新井先生の猛烈なアタックから逃げてきたらしい「ウパ山先生」は、ウーパールーパーの私に向かって愚痴と願望を語りだす。 「高校生の夏に出逢ったあの子にまた会いたい」  初恋だものね。  でもそれって、「ウパ山先生」ってばさ、かなりその話もその子も美化されているかもよ?  初恋の君が、控えめに見てもかなり素敵な女の子だったとしてもね。  は何年前なの?  初恋の女の子に出逢った夏休み。  君が、角山(ウパ山)流星が海で溺れたあの日は、ずいぶん昔のことでしょう?  私もね、その日のこと実はとぉってもよく知ってはいるのよ。  ――「ウパ山先生」、……ねえ、流星くん。
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