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祝日のお昼時。駅前は多くの人で賑わっている。図書館に入ろうとした愛理は、玄関前の階段で、誰かがぐったりしているのに気付いた。
彼女より少し歳下の少年だった。美しい顔立で、長いまつ毛を伏せている。彼のお腹が、ぐるぐるぎゅーっと鳴った。
愛理は、困っている人を見かけると放っておけない性格だった。鞄をがさごそと探る。
差し出されたあんドーナツを見て、少年が目をぱちくりさせる。
「よかったら、食べて」
「あ、ありがとうございます!」
彼はそれを、ぺろりと平らげてしまった。
「……実は俺は、タイムマシンで未来から来たんです。お金も食べ物も底を突き、空腹で倒れていたところをあなたに救われました。何か、恩返しをさせてください」
彼女の顔を見上げて、少年がハッとする。
「あなたはもしかして、伊藤愛理さんですか」
愛理は目を丸くした。
「どうして私の名前を」
「この時代の出来事は、前もって調べてあるんですよ。お手に触れてもよろしいですか」
彼はひざまづくと、愛理の右手中指に、青い宝石をあしらった指輪をはめてやった。
「わあ、きれい」
「一種の機械です。事が過ぎたあとに、効目が切れるよう設定しました。道中、くれぐれもお気をつけて」
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