*透明指輪*

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 日が傾いていた。幾つものサイレンが近付いてくる。群衆を搔き分けるように救急車やパトカーが到着するのを、彼女はぼんやりと眺めていた。 「愛理!」  聞き覚えのある声がした。  人波を縫って、誰かがやってくる。愛理は思わず立ち上がった。 「お兄ちゃん!」  階段を駈け降り、力いっぱい抱き合った。いつの間にか効目が切れて、元の体に戻っていたのだ。  そのはずみで指輪が外れた。日を跳ね返してキラリと光る。雑沓の隙間を転がってゆき、夕闇にひっそりと紛れてしまった。  兄は妹の無事を確めると、ほっとしたように言った。 「なかなか帰って来ないから、巻き込まれたんじゃないかと心配したんだ。愛理が無事で、本当によかった」  夕陽に照され、二人の影が伸びている。彼女は小首をかしげた。 「巻き込まれるって、何のこと? この近くで何かあったの?」  兄は、不思議なものを見るような目で言った。 「町中大騒ぎなのに、知らないのか。ついさっき、通り魔が捕まったんだ。誰彼構わず、目に付いた人を刺し殺して……」
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