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未来へ
──そんな、いつかのことを思い出していたのは、春の日差しが懐かしかったせいだろうか。
誰かにとって、終わりと始まりの間の春。まだ肌寒い日差しを受けながら、私はゆっくりと歩みを進める。
一人きり? ううん。そっと息を吸い込んで。
「あんまり急ぐと危ないよー? ほら、もっとゆっくりー!」
駆け出すように遠ざかる、娘の背中に声をかける。
「ママ、これむずかしー!」
そして、だけど振り返りもせずに。片足を蹴って、恐る恐る、フラフラと。
古びたキックボードは、春の小路を駆ける。
案外、簡単に治ったんだ。行ってきますも、ただいまも。また行ってきますも、もう昔。
まだ実家のいつもの場所にもたれかかって、ゆっくりと、色褪せていく。
そして我が子が、気まぐれに目を輝かせたから。
「楽しい?」
誰にともなく問いかける。
「たのしー! でもこわい!」
聞き慣れた声がする。暖かくて。
「錆びてるもんねー。新しいの買う?」
「いいのっ?」
振り返る笑顔。意外にも、少し胸にチクッとした。
懐かしいな、こういうの。親になって無くしたものだと思っていたけれど。私はただ、笑顔を見せる。
私と、君と。魔法じゃなくても幸せの時間。
ちょっと思ってたのと違うけど、ちゃんと見せれたよ。私の、最高の景色。
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