未来へ

1/1
前へ
/3ページ
次へ

未来へ

 ──そんな、いつかのことを思い出していたのは、春の日差しが懐かしかったせいだろうか。  誰かにとって、終わりと始まりの間の春。まだ肌寒い日差しを受けながら、私はゆっくりと歩みを進める。  一人きり? ううん。そっと息を吸い込んで。 「あんまり急ぐと危ないよー? ほら、もっとゆっくりー!」  駆け出すように遠ざかる、娘の背中に声をかける。 「ママ、これむずかしー!」  そして、だけど振り返りもせずに。片足を蹴って、恐る恐る、フラフラと。  古びたキックボードは、春の小路を駆ける。  案外、簡単に治ったんだ。行ってきますも、ただいまも。また行ってきますも、もう昔。  まだ実家のいつもの場所にもたれかかって、ゆっくりと、色褪せていく。  そして我が子が、気まぐれに目を輝かせたから。 「楽しい?」  誰にともなく問いかける。 「たのしー! でもこわい!」  聞き慣れた声がする。暖かくて。 「錆びてるもんねー。新しいの買う?」 「いいのっ?」  振り返る笑顔。意外にも、少し胸にチクッとした。  懐かしいな、こういうの。親になって無くしたものだと思っていたけれど。私はただ、笑顔を見せる。  私と、君と。魔法じゃなくても幸せの時間。  ちょっと思ってたのと違うけど、ちゃんと見せれたよ。私の、最高の景色。
/3ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加