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ヒサクも応戦しようとするが、動きが速すぎて避けるのが精一杯。シーライザの短刀が空を斬る音を立てるたびに、私は安堵する。
私も、この劇薬をなんとか活用したいけれど、付け入る隙がない。そもそも、ヒイロはある程度護身術を身につけていたけど、こちらは全くの素人なのだ。あの二人の間に入っていくなど、到底無理だ。
ファルシアも、隣でハラハラしながら見ている。
ヒサクは、すでに肩で息をしていた。シーライザは、呼吸の乱れひとつない。実力の差は、素人の私が見ても歴然だった。息を整えようと距離を取ろうとするが、シーライザはそれをさせない。だめだ、やっぱりヒサクはやられてしまう……。
いっそのこと、この劇薬をシーライザに投げつけようか?
いや、きっと避けられるし、当たったとしても服の上からだ。
それだと、効果が薄い。
シーライザのターゲットを、私に変えれば……。
私は、シーライザに向かって叫ぼうと、体に力を込めた。
その時──
「ダメっ! ヒイロ!!」
ファルシアに感付かれ、止められた。
その声は、シーライザの耳にも入ったらしく、彼は一瞬こちらに気を取られた。その隙を、ヒサクは見逃さなかったようだ。ヒサクの一撃が入る。
しかし、致命傷とまではいかず、シーライザはすぐに体勢を立て直す。
「ヒイロっ、今、何をしようとし──」
ファルシアは言いかけたが、次の瞬間、ヒサクとシーライザに向かって走り出した。
しまった、この展開は……!
「ダメェェぇぇぇっ!!」
ファルシアは、叫びながら二人の間に入っていった。
シーライザの短刀は、かろうじて軌道を逸れ、ファルシアの腕を斬った。
その瞬間は、まるでスローモーションのように感じられた。
「……メ、ダメだよ、ライザ……。これ以上は」
ファルシアは、ヒサクを背にかばように、シーライザに向き直った。
ただただ、純粋な目を向けて、彼に懇願した。
ライザ。
それは、シーライザのミドルネーム。
彼と親しい者でなければ口にすることのない名前だった。
そうだ、彼女はずっと願っていた。ヒサクとシーライザ、二人を救うことを。
「ごめんね……。あの時ライザじゃないって、言えなくて……。ごめんね……」
「……ファルシア?」
何が起こったのかわからないヒサクは、ファルシアに驚きの目を見せた。
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