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VS勇者・2ラウンド⑥
「おい、キー」と揺すられて、目を覚ますと格闘家が。
起き抜けでぼうっとしたのもつかの間「いや、これは・・・!」と今更、勇者の顔を毛布で隠そうとする。
わずかに、こめかみを引きつらせた格闘家なれど、すぐに顔を引きしめて「しー」と口元に人差し指を立ててみせた。
顔を近づけ、囁いたことには「事情はおおかた知っている」と。
「俺は白魔導師と野宿をしていたが、寝てから、しばらくして、なにかが罠にかかったみたいでな。
白魔導師には魔法で番犬をだしてもらって、テントにとどまってもらい、俺が見にいった。
そしたら、女の黒魔導師が結界に閉じこめられていたんだ。
こわい顔をして殺気立っていたから、閉じこめたまま、なにがあったのか問いつめた。
『私に魅了されないなんて、勇者はインポの軟弱糞野郎だ!』
『せいぜい男同士虚しいセックスに耽って、夜明けに死んじまえばいい!』
罵倒するだけだったが、なんとなく分かったよ。
薬や魔法で勇者がおかしくなって、それを治すために、お前が相手をしたんだろ?」
俺と肉体関係を持つ格闘家なら、黒魔導師の罵りに惑わされ、逆上してもおかしくない。
が、俺らの捜索を優先し、今も平静に接しているあたり、さすが理性と根性の塊。
こんなときはとくに、格闘家様様とありがたいもの。
「そうなんだよ!」と泣き叫びたいところ、喉が死んでいたから、しきりに頭を振って、うんうんと。
「そうか」と肯きかえしてくれたのに、ほっとしたとはいえ、まだまだ安心できずに「そういえば!」と目を見開く。
察してくれて「白魔導師には教えていない」とありがたく補足も。
「魔物が罠に引っかかって、そいつが勇者を見かけたと証言したと。
『その証言をあてにして見てくる』と彼女には伝えて、黒魔導師に白状させてから、お前らを探しにきたんだ。
黒魔導師は閉じこめたままにしてある。
お前と勇者が休んだあとで、処遇をどうするか考え、決めよう。
俺の記憶が正しければ、黒魔導師はお尋ね者だったはずだ。
そうだとしたら、まるこめようがあるだろう」
「お前がいて、本当、助かるよおー」と云えない代わりに、合掌した手を掲げる。
ふ、と笑いかえしたなら「じゃあ、俺は一旦、白魔導師のところにもどるから」と体を引いた。
「二時間ほどしたら、白魔導師をつれて、ここにくるから、それまで整えておけよ。
勇者も起こして、事情を説明して」
「口裏をあわせるのも忘れずに」と立ちあがったのに「あれ?」と思い、気がつけば、格闘家の手首をつかんでいた。
「口裏」に引っかかってのこと。
不貞行為に寛容でない格闘家が、こんなに率先して浮気を隠す、片棒を担ぐような真似をするなんて。
元凶は黒魔導師だし、しかたないこととはいえ、全面的に協力するほど、割りきれるものなのか。
もし、万が一。
格闘家が、前から俺と勇者の関係を知っていたなら。
むしろ、白魔導師にすべて明かしたほうが、俺と勇者の仲を引き裂くことができて好都合。
そうした俺たちの破滅を望む邪心があるからこそ、ふりはらうために強がっているのでは・・・。
口が利けないので、訴えかけるように見つめれば、寂しげにほほ笑み「大丈夫だ」と。
やや荒っぽく、俺の手を外して、森のなかに消えた。
目覚めた勇者は、寝てからのことを、これっぽっちも覚えていなかった。
「なんかエッチな夢を見た気がするけど・・・」ときょとんとしていたからに、黒歴史のような真相は教えず。
黒魔導師に薬を盛られたこと。
俺が対処して、毒を抜いたから、もう大丈夫なこと。
おおまかに説明をして「白魔導士には黒魔導師と会ったことは云うな」と口止め。
不思議がるような顔をしつつ「どうして?」とは聞いてこないで、俺にフェラした翌朝のように、いつも通り、しらを切った勇者は、さすがというか、なんというか。
「よかった!二人とも!」と抱きついた白魔導師に、勘づかれずに済んだものの、後腐れがないでもなかった。
その日から、格闘家が俺に夜の相手をさせなくなったのだ。
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