ⅤS格闘家・2ラウンド①

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ⅤS格闘家・2ラウンド①

資金集めをするのに、栄えた大きな町に滞在したとき。 「今日の夜、試合があるんだが、見にこないか?」と格闘家に誘われた。 初めてのことだ。 試合といっても訳あり。 領主など、おかみの目を盗んで賭けごとをする、地下格闘だ。 法遵守を重んじる、お堅い格闘家にして「そんないかがわしい商売に加担するのか」とまえから意外には思っていたが。 格闘については、すこし考え方が違うらしい。 また、社会の裏に潜む連中に対しては、曰く「そういう輩と庶民の住み分けが、ある程度、必要だからな」と。 領分をはみださず、庶民を巻きこまず、弁えてオイタをするなら、多少、目をつぶるよう。 まあ、ぶっちゃけ、格闘に盲目ラブで贔屓にしているのだろう。 といって、趣味を嗜んでいるだけでない。 本人は絶対にひけらかさないが、自主的にお目つけ役になっている模様。 噂では、顔や素性を隠さず、正面きってのりこむ格闘家は、対戦相手をこてんぱんにし、圧倒的力を見せつけるのだとか。 ただし、ミネウチのようなもので、対戦相手はすべて軽傷、ほとんど後遺症もないという。 「金儲けの道具に成り下がるな!」とファイターたちに喝をいれ、格闘の真髄を、身をもって示すのだ。 その勇姿を目の当たりにしたヤツらは、畏敬の念を抱いて、そのあと、あくどい商売をしなくなると、もっぱらの噂 。 「格闘で賭けごとするのは悪だ!」と安い正義感をふりかざすのでない。 信念を通し己の背中を見せて、説得させるあたり、俺でも「かっこいい・・・」と惚れ惚れする。 と思っているから、生真面目な格闘家の不真面目な遊びを、馬鹿にしたり軽蔑したことはない。 それでいて、地下格闘に応援しにいかなかったのは、たんに人同士、殴る蹴るのを見るのが得意でないから。 自分が体術を使ったり、魔物との戦闘を見るのは大丈夫(もとがゲームだから、すこしデフォルメされているし)。 ただ、ボクシングや総合格闘技、柔道、テコンドーなどの、肉体と肉体がぶつかり合う競技は、前世からも直視できなかった。 といって、血を見たら卒倒するほどナイーブでなく、剣道やフェンシングといった武器使用の競技は可と、自分でも自分の基準がよく分からないのだが・・・。 そのことを格闘家には話してあったから、これまで誘うことはなかったのだろう。 そのくせ、今になって云いだすなんて、女黒魔導師の一件があってなのは明らか。 本人に、そのつもりがなくても「詫びたいなら」と脅しているようなもの。 「ずるいなあ」と思いつつ、まんまと後ろめたくなって、ついていくことに。 といって、試合まで、控室で二人きりなのも居たたまれなく、とうとう口を切った。 「あの・・・前から俺と勇者のこと、知っていたの?」と。 シャツを脱ごうとしたのをとどめて、一旦、もどしてから「ああ・・・」と壁をじっと見て。 「いや、せいかくには違うな」と自嘲的に呟いて、ふり向いた。 「あのとき、森で勇者とお前を見つけたとき、勘づいたんだ。 これが初めてではないだろう。 もしかしたら、俺より前から、関係があったんじゃないかって」 迫って詰問されたわけでないものを、つい目をそらす。 自白したようなものだが、格闘家は責めてこず、おそるおそる見ても、さほど表情を変えず。 「怒っていないのか?」と聞いて、瞬きしてから格闘家が応じようとしたとき。
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