ⅤS格闘家・2ラウンド②

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ⅤS格闘家・2ラウンド②

「やあ、やあ、やあ!勇者ご一行のかたが、こんな掃き溜めのようなところに、いらっしゃるなんて!」 ドアをノックもせず、踏みこんできた太鼓腹の男。 高級品を全身にまとった、どぎつい格好をして、卑屈っぽく馴れ馴れしいのが鼻につく。 こういった商売で荒稼ぎしている、ここの常連の一人だろう。 俺には目もくれず、格闘家一直線に揉み手をしながら「じつは、オイシイお話をさせてもらいたく」とこそこそ。 「あなたは、わざわざ名乗りをあげませんでしたが、なんたって有名なお方ですので。 すっかり、闘技場では大注目の的、隅々まで知れ渡っております。 もちろん、皆が皆、熱狂して、あなたに大金を賭けている」 「対戦相手は、半年連戦連勝の男というのにね」と肩をすくめる。 調子を合わせず「用件は」とそっけなく切りだせば「ああ、すみません」とわざとらしく、おどけて。 「ここの支配人にお聞きしましたが、あなたさまが受けとる報酬の比率は、そう高くないようですね。 せっかく、皆が賭けても、あなたさまのスバラシイパフォーマンスに見合った報酬が支払われることはないでしょう。 勇者さまご一行のかたを、だしに使い、ないがしろにして、自分だけ旨い汁をすするなんて、よくもまあ、そんな恐れおおことができるものです。 とても私にはできませんね。 そう、私なら、支配人との約束より、ずっと多くの報酬をお渡ししますのに」 「わざと試合に負けてくれれば」と囁いたのが聞こえて、息を飲んだ。 八百長の誘い!? 聞き捨てならず、口を開こうとしたら、格闘家の目配せ「しずかに」と。 驚きつつ、従うと、ブヒブヒ臭い息を吐く豚男に向きなおり「いいだろう」と肯いた。 報酬の額も聞かずに。 マジで八百長に加担するのか? 問いただす暇もなく、お呼びがかかり、格闘家は闘技場、スポットライトに照らされる高い鉄の柵に囲まれた中央へと。 開始の合図がなってからは、そりゃあ、俺を冷や冷やしっぱなし。 さすがは半年連戦連勝の猛者。 重い衝撃音を轟かすパンチを間髪いれず浴びせてきて、格闘家は防戦一方。 リアルに押されているの?八百長のためなの? どちらなのか分からず、気が気でなかったし、格闘家に賭けたヤツらが殺気立って非難轟轟なものだから、それら観客に混じっていては生きた心地がせず。 ただ、八百長について気になるあまり、格闘鑑賞が不得手なのを一時忘れて、試合に見入ったもので。 「がんばれ!これ以上、俺の心臓がもたない!」とささやかながら応援したものの、ふらつく格闘家がとうとう、ガードを下ろしてしまい。 「もらったあ!」とばかり、強く踏みこんで繰りだされたパンチが空を切ってとどめを。 と思いきや、寸でのところで避けて、目にとまらぬ速さで相手の懐にはいりこんだ格闘家。 地面に胸がつきそうなほど体勢を低くすると、瞬時に跳びあがって、拳を顎にクリーンヒット。 まるでジャンルのちがうゲームようなアリサマ。 格闘家の渾身のアッパーは、すさまじい迫力にして、全身から炎が噴きだすようなオーラが見えたほどで、例えるなら昇○拳。 それまで相手が十分くらい、ちまちまこつこつとパンチをしていたのに対し、格闘家は一瞬の一発でノックアウト。 とことん清清しい、その痛快さたるや。 今まで肉弾戦をまともに見れなかった俺は、はじめて格闘の醍醐味を知ったこともり「おおー!」と万歳し、我を忘れてシャウトしまくり。 もちろん辺りの観客も狂喜乱舞して、地を揺るがすような雄たけびを轟かせたもので。
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