4人が本棚に入れています
本棚に追加
/17ページ
ⅤS格闘家・2ラウンド②
「やあ、やあ、やあ!勇者ご一行のかたが、こんな掃き溜めのようなところに、いらっしゃるなんて!」
ドアをノックもせず、踏みこんできた太鼓腹の男。
高級品を全身にまとった、どぎつい格好をして、卑屈っぽく馴れ馴れしいのが鼻につく。
こういった商売で荒稼ぎしている、ここの常連の一人だろう。
俺には目もくれず、格闘家一直線に揉み手をしながら「じつは、オイシイお話をさせてもらいたく」とこそこそ。
「あなたは、わざわざ名乗りをあげませんでしたが、なんたって有名なお方ですので。
すっかり、闘技場では大注目の的、隅々まで知れ渡っております。
もちろん、皆が皆、熱狂して、あなたに大金を賭けている」
「対戦相手は、半年連戦連勝の男というのにね」と肩をすくめる。
調子を合わせず「用件は」とそっけなく切りだせば「ああ、すみません」とわざとらしく、おどけて。
「ここの支配人にお聞きしましたが、あなたさまが受けとる報酬の比率は、そう高くないようですね。
せっかく、皆が賭けても、あなたさまのスバラシイパフォーマンスに見合った報酬が支払われることはないでしょう。
勇者さまご一行のかたを、だしに使い、ないがしろにして、自分だけ旨い汁をすするなんて、よくもまあ、そんな恐れおおことができるものです。
とても私にはできませんね。
そう、私なら、支配人との約束より、ずっと多くの報酬をお渡ししますのに」
「わざと試合に負けてくれれば」と囁いたのが聞こえて、息を飲んだ。
八百長の誘い!?
聞き捨てならず、口を開こうとしたら、格闘家の目配せ「しずかに」と。
驚きつつ、従うと、ブヒブヒ臭い息を吐く豚男に向きなおり「いいだろう」と肯いた。
報酬の額も聞かずに。
マジで八百長に加担するのか?
問いただす暇もなく、お呼びがかかり、格闘家は闘技場、スポットライトに照らされる高い鉄の柵に囲まれた中央へと。
開始の合図がなってからは、そりゃあ、俺を冷や冷やしっぱなし。
さすがは半年連戦連勝の猛者。
重い衝撃音を轟かすパンチを間髪いれず浴びせてきて、格闘家は防戦一方。
リアルに押されているの?八百長のためなの?
どちらなのか分からず、気が気でなかったし、格闘家に賭けたヤツらが殺気立って非難轟轟なものだから、それら観客に混じっていては生きた心地がせず。
ただ、八百長について気になるあまり、格闘鑑賞が不得手なのを一時忘れて、試合に見入ったもので。
「がんばれ!これ以上、俺の心臓がもたない!」とささやかながら応援したものの、ふらつく格闘家がとうとう、ガードを下ろしてしまい。
「もらったあ!」とばかり、強く踏みこんで繰りだされたパンチが空を切ってとどめを。
と思いきや、寸でのところで避けて、目にとまらぬ速さで相手の懐にはいりこんだ格闘家。
地面に胸がつきそうなほど体勢を低くすると、瞬時に跳びあがって、拳を顎にクリーンヒット。
まるでジャンルのちがうゲームようなアリサマ。
格闘家の渾身のアッパーは、すさまじい迫力にして、全身から炎が噴きだすようなオーラが見えたほどで、例えるなら昇○拳。
それまで相手が十分くらい、ちまちまこつこつとパンチをしていたのに対し、格闘家は一瞬の一発でノックアウト。
とことん清清しい、その痛快さたるや。
今まで肉弾戦をまともに見れなかった俺は、はじめて格闘の醍醐味を知ったこともり「おおー!」と万歳し、我を忘れてシャウトしまくり。
もちろん辺りの観客も狂喜乱舞して、地を揺るがすような雄たけびを轟かせたもので。
最初のコメントを投稿しよう!