ⅤS格闘家・2ラウンド③

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ⅤS格闘家・2ラウンド③

控室にもどってきた格闘家に、興奮冷めやらないまま「すごかった!」と抱きついた。 俺にしたら、らしくないこと。 夜以外は、むやみに接触しようとはしないから。 目を丸くした格闘家は抱きかえさず、手を掲げたまま硬直。 その反応と全身汗まみれなのに、かまわず、熱い抱擁をしたまま、まくしたてる。 「八百長持を引きうけたふりして、わざと対戦相手にボコボコにさせてやったんだろ! たく、さんざん気を揉ませやがって! いや、もう、まさかだよ! 豚男に『しめしめ』って思わせて、すっかり安心させてから、地獄に叩き落とすなんてな! 悪人がぎゃふんってなるの見て、こんなスカッとしたことねーって! サイコーなおしおきだし、狙っての逆転劇をクールにこなしてみせる、お前、めちゃくちゃかっこいい!」 手放しに褒めたおすのに、照れるというか、困ったように笑う格闘家。 まだまだ感激感動の思いを伝えたかったが「・・・試合前、お前、怒っていないのか?って聞いただろ」と切りだされて、口をつぐむ。 「自分でも不思議なんだが、怒るより、焦ったんだ。 勇者に負けてしまうんじゃないかって。 いや、負けたくないって。 だから、今日、連れてきた。 お前にいいところを見せたくてな。 人同士の格闘を見るのが得意でないのは知っていたのに。 でも、俺の取り得は格闘しかないからって、まあ、やっぱり焦っていたんだろう。 勇者より、かっこいいと思われたい、俺に惚れてほしいって」 「そりゃあ、白魔導師を裏切るは、しかも罪悪感もなさそうだは、いけしゃあしゃあと、しらを切っているは、底知れない下衆なサイコパスより、一途で誠実、なにより文句なしに常識的で正気の、お前のほうがいいに決まっている!」 と熱烈大歓迎に、格闘家の思いに応じたいところ。 「そりゃ」から先を云えず、口を開けたまま、途方に暮れる。 「なんでだバカヤロー!コンチクショー!」と地団太を踏みたいほどの自己嫌悪。 格闘家と結ばれたほうが、絶対絶対、お得なのに。 勇者のように、べつの本命の恋人がいるという障害がない。 浮気し、浮気されの仲間内のただれた関係を、正常にもどすことができるし。 きっと勇者と白魔導師は祝福してくれるはず。 一方で、勇者との関係は、たとえ白魔導師と別れても決して公にできない。 いろいろと考えたところで、格闘家と恋仲になったほうが、すべて丸くおさまる。 魔王打倒の旅に支障にならない点は、とくに。 重重分かっている。 分かっているが「おめでとう」と満面笑顔で手を叩く勇者を思い浮かべると、胸が軋む。 長い、俺のだんまりから、察したらしい格闘家は、やや顔を引きつらせつつ、そのことについては触れず。 目をそらしてから、向きなおると、手を伸ばして「なあ、触っていいか」と。 おいおい、しんみりした空気ぶち壊しに、なーに突発的に発情してんだ!? なんて、女黒魔導師の件からご無沙汰なことを思えば、どうにもツッコめない。 それに、試合では完全燃焼していないのか。 持て余す荒ぶる熱が、肌から湯気となって、立ちのぼっているようだし。 そう意識すると、むらむらの行き場がないのに、切羽詰まっているようで哀れに見える。 生唾を飲みこみつつ「いや、べつに触ってほしいわけじゃないからな?」と誰にともなく、言い訳をして応じた。 「・・・お、俺はいいけど、お前がイヤなんじゃないか」
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