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あの日、あの時
「見て、アラン様。キレイでしょう?」
ロナが嬉しそうに花を見せてくれた。花を育てて売り、それで生計を立てているロナ。花を買う者はほぼいない。ただ一人、花を買い続けているのはアランだけ。
「ああ、今日は白い花か。一輪買おう」
「ありがとう」
いつも一輪買ってくれるので、ロナは一番形がきれいな花を選んでくれる。たくさん買うこともできるが、一輪買うように勧めてきたのは他でもないロナだった。金を稼ぐならたくさん買った方がいいと思うのだが。
「あのね。お花って一つ一つがとてもキレイなの。花束もキレイなんだけど。一つのお花もキレイだって気づいて欲しい。ちゃんと見てもらいたいの」
その言葉にアランは花を一輪ずつ買っている。負け知らずの戦士として最近英雄となりつつあるアラン。豪華な花束、部屋を埋め尽くさんばかりの花など何度も見てきた。しかし一つ一つの花をじっくり見た事は、そういえばなかったかもしれない。
なんとなく普段は通らない道を散歩していた時に出会った少女。戯れに花を買っただけなのだが、あまり欲がなくひたむきに生きる姿に心を打たれてこうして通っている。
いつか自分の妹として迎え入れたいとは思っているのだが。なぜかうまく言い出せない。このまま彼女には自由に花を売り続けてほしいという気持ちもあるのだ。
立派な家柄である自分の家に入れてしまったら、政略的な意味合いでの結婚を強いられるに決まっている。
花売りと客という関係を壊したくないというのも正直なところだ。人間関係でこんなに悩んだのは初めてだ。身の回りの奴は使えるか使えないかだけで判断してきた。
人の上に立つというのは、時に非情な選択をしなければいけないこともある。強くあれ、情に揺さぶられるなと父から厳しく躾けられてきたが故だ。
「この国は一体いつから戦争をしているの?」
「俺が産まれる前からだな」
「どうしてそんなに戦うの?」
「戦わなければ滅ぼされてしまう」
「本当に終わるの?」
「終わらせる、俺が」
「戦争が終わったらお花はきれいに咲くかな? 戦いがあるとね、馬車や兵士が通った後はお花が全部散っちゃうの」
ロナの悲しそうな言葉にアランは何も言うことができない。蹴散らしている側だからだ。
彼女はアランを責めているわけではなく、単純に花が散るのが悲しいと言っているだけだ。そこに何の含みもないのはわかっている。後ろめたさを感じるのは、自分の問題だ。
何故ロナと会い続けるのかなんとなくわかった。彼女はまるで鏡のようだ。自問自答を繰り返し、これで正しいはずだと自分に言い訳をして進み続けている己の道。本当にそうなのか、真正面から問いかけてくれる。
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