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世界を救った英雄
「毒で死んだなんて当時の人はわからないからね。おかしな病が流行ったと大混乱だっただろう。神の怒りだ、とか? そこで自分には薬学があるから任せろと、衰退し始めていた王家にうまく取り入ることができたんだね」
ふう、っと旅人が影に息を吹きかける。
「ねえ? ロナ」
彼女は無表情だ。旅人の言葉を静かに聞いている。
「戦争に勝ったって、どうせ次の戦争が生まれるに決まってる。戦争を終わらせるには戦争している国が滅ぶしかない。花や植物を育てて薬学に精通していた、頭の良い君にはそれがよくわかっていた」
一つの国が滅んだ。それはたった一人の裏切り者によって自国を滅ぼされたと言われている。ただしそれが一体誰なのか長年謎だった。
当時国を救おうとしていた英雄だという説が濃厚だが、戦争に出ているはずなのに自分の国を滅ぼせるわけは無い。それに各地で戦争の様子は伝えられて、英雄アランは確かに先陣で戦っていたと言われている。影武者、別の英雄をアランに当てはめているだけだという話も多いが。
一つ確かなのは、この裏切り者は他国から英雄として語り継がれているということだ。戦争を終わらせた、勇気ある英雄。
「少女って言われるとどうしても幼い子供を想像してしまうけど。三十代だったアランから見れば年下の女の子はみんな少女だ。小さな子供が王家に交渉できるわけない。まして槍や剣で人を殺すことなんて」
ロナは、二十歳前後の女性だ。持っていた白い花を自分の足元に置いた。
「この世に神様なんていないと思ってた。だって誰も救わないから。でもね、確かにそんな存在はいたみたい」
ロナはつぶやく。足元に生えていた本物の花に触れた途端。花はみるみる枯れて黒い液体が溢れ出し、そのまま黒い水溜まりを作った。
「花が好きだった私はもう花を触ることができない。紙も木からできているからやがて溶けてきてしまうわ。自分で紙を作って花にして植え続ける。そうして最初の頃に埋めた花がどんどん散っていく。それの繰り返し」
彼女は確かに罰を受けた。神というものがこの世にいるのかどうかなんてわからないが。こうして一人延々と花を作り続けている。自分が殺した、放置された死体の上に花を添えている。
「自分の罪と向き合うためなのかもね」
数え切れないほどの白い花。どれほどの人が殺されたのか。
「結局この国は戦争に負けた。恐怖で縛り上げた連合軍なんて裏切るに決まってる。全ての国が寝返って、世界中の国とたったひとつのちっぽけな国で戦えば負けるに決まってる」
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