「怪物」

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「怪物」

 「腹減った」  そう口にするのも日課となってどれ程月日が流れただろう。この世に生まれ落ちてずっと液体しか口にしてこなかった俺が何故大きくなれたのか。その謎はいくら考えても答えが出ない。  俺らケーヴァラ族は生物の死を口にしない。生きる者の血を分けてもらい、それだけで生を繋ぐ。  殺生に加担しない一族の教えは小難しいものばかり。「食うな」と言われてきたから食わなかっただけ。俺はそうやって生きてきた。  一族と言えど教えに歯向かう奴は必ず現れる。俺たち一族は皆白い髪と翼、下半身には脚鱗から四趾が伸び太い爪が生えている。だが闇に呑まれた奴は生える毛と羽毛が黒に染まって鼻頭は上に持ち上がり、舌は二股に、歯は伸びて鋭い牙となり恐ろしい顔になる。悪に染った奴らは一族から勘当され、やがて「その手の者」に捕まり、殺された方がましだろう苦しい罰を与えられる。  「その手の者」から逃れ続ける奴らは互いに集まり、殺生を省みない極悪非道な集団と化して生きている。俺らは奴らのことを「トゥリヴィシャ」と呼ぶ。
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