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見慣れた景色をぼんやり眺めながら、そんなことを考える。
…そんなに親密ではなかったから?
…そんな時間がなかったから?
……それとも、単に話すタイミングがなかっただけ?
あきらくんに前世の記憶が私を愛していると言われる度に、私は年齢が離れていることばかり強調していた。
「実は私、不倫して相手の家族を傷つけるような女だったのよ?」
と言う方がよっぽど効果覿面だったはずだ。
…悪く思われたくなかった?
……それとも不倫のことだけは彼に話したくはなかったの?
よく分からない…
でも、一つだけ分かっていることがある…
前までならそのことを簡単に話せたかもしれないのに、今の私はあきらくんにたかしさんとのことを話すことを恐れている。
…とても恐い。
私の話を聞いたあとのあきらくんの顔を想像すると、胸が苦しくなる。
…今日、話さないとダメかな?
また、今度じゃダメ?
ただでさえ、こんな傷ついた状態だ…話せばしばらく動けなくなるかもしれない。
明日からもまだ仕事は続く…今日はやめておこう…
話すなら週末の方がいい…うん…金曜日なら土日でなんとか立ち直れる。
そうこう考えているうちにマンションに着き、更に部屋の前まで来てしまう…
いつもなら、何も気にせずにこの扉を開けられるはずなのに、今日はとても億劫だ。
早く帰りたかった筈なのに…
早くあきらくんの顔が見たかった筈なのに…
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