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たかしさんが私に謝る。 だが、表情からは反省が窺えない。 …やられた。 彼ならいつかはこうして強引に私と話をする機会を作るとは思っていただけに迂闊だった。 「自分が何をなさっているか分かっていますか?仕事中ですよ?こんなことが他の社員に知られたらどうするんですか?」 怒りが収まらず、やや声を荒げた。 「…そんなに責めないでくれ。俺はただ君と話がしたかったんだ。勿論、それは仕事が終わってからでも良かった。でも、君はそんな機会を与えてはくれない。だから、こんな卑劣な手段に出てしまったんだ」 たかしさんがまるで私が悪いみたいに言う。 「でも、分かってくれ。俺がこんなことをしてでも君と話したかったのは、今でも君を忘れられないからなんだ。今でも、俺は君のことを愛している…」 たかしさんがそんな台詞を平気で口にした。 …相変わらずだ。 彼は簡単にという台詞を吐ける。 昔、私の耳元で囁いていた台詞を家でも奥さんに言っていた最低な男。 そして、そんな彼と不倫してしまった私も最低な女… 何でこんな人を好きになっちゃったんだろうか…? 「…会社でそんなことを普通言いますか?しかも、部長という立場の人が?」 と彼を睨む。 「…言うさ。会社で上に立つ者ほど、会社では自分の好きなように振る舞う。そんな上司をたくさん見てきた」 たかしさんがそう言って、私の発言を笑い飛ばす。
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