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そして、視界が影になる。
「えっ…?」
私は足を止めて、ゆっくりと見上げた。
すると、そこには私に黒い傘をさしているあきらくんがいたのだ。
「おかえりなさい」
あきらくんは雨に打たれながら、笑みを浮かべた。
慌てて、傘の柄を持って、あきらくんも傘の中に入るように移動させる。
「何をやってるの?濡れちゃうよ」
顔を見上げて言った。
「のりこさんこそびしょ濡れじゃないですか?遠くで見かけて驚きましたよ」
落ち着いた様子であきらくんがそう言った。
「…迎えに来てくれたの?」
同じ傘に入っているあきらくんに訊ねる。
「はい。いつもなら今から帰るというメールをくれるのになかったから、雨も降っているし心配になって来ちゃいました」
あきらくんがいつものスマイルを見せる。
「…残業だったかもよ?」
「なら、いつもののりこさんならメールをくれます」
すぐにあきらくんが否定した。
「…そっかぁ、心配かけちゃったね?傘を会社に忘れちゃって、そのまま帰って来ちゃった」
懸命に笑みを作る。
「…そうですか。さあ、早く帰りましょう。風邪をひいてしまう」
とあきらくんにそう促される。
あきらくんが持つ大き目の傘に二人並んで歩いていた。
「…どうしたの?って聞かないの?もっと、慌てたり驚かれたりするかと思った…」
迎えに来てくれるとは思っていなかったが、帰ったらきっとそういう反応をされるかと思っていた。
でも、不思議なくらいあきらくんは落ち着いている。
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