エピソード1 さとう めい

7/11
前へ
/259ページ
次へ
いつものりこちゃんが家に遊びに来てくれるのを楽しみにしていた。 …でも、最近はずっと会えていない。 私が中学生になった頃に会ったのを最後にのりこちゃんは私の家に来なくなったのだ。 その理由は分からない。 きっと、のりこちゃんにも事情があるのだろう。 私は随分と会っていないのりこちゃんの顔を思い浮かべながら、必死にキーホルダーを探す。 誰かの机の下を覗いて、なかったのを確認してから顔を上げると、そこには顔があった。 「きゃっ!?」 思わず驚きの声を上げて、その顔から離れた。 「ごめん…驚かせた?もしかして、何か探し物?」 新入生代表の挨拶をしていた男子生徒だ。 「えっ…あっ、うん…ちょっと鞄に付けていたキーホルダーを失くしちゃって…」 目を逸らして答える。 「そっかぁ…大切な物なんだね。どんなキーホルダー?」 男子生徒に聞かれて、素直に答える。 「ピンク色のイルカのキーホルダー…」 私がそう言うと、男子生徒は踵を返して私に背を向けた。 「オッケー…イルカだね」 そう言って、彼は周辺を探し始める。 「えっ、いいよ。迷惑かけちゃうし…」 と彼の背中に近づいて言った。 すると、彼は立ち止まり、顔だけ私の方を向く。 「迷惑?そんなのかければいいじゃないか。一人で探すより二人の方が早いよ」 と彼が笑みを浮かべて答える。 その表情に思わず胸が苦しくなった。
/259ページ

最初のコメントを投稿しよう!

20人が本棚に入れています
本棚に追加