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   翌日、道場に人っ子一人こなかった。掃除に来るカノラが邪魔に思えたカランデュラの仕業だった。カノラに秘密で、外での修行、と銘打ったのだった。  みんなが来ないと、練習が見られない。不貞腐れたカノラだったが、 「奥の間!!」  カノラはバケツと雑巾を手に、悠々と奥の間に向かった。 「掃除しますね」  念のため、声をかけながら中に入る。誰も練習をしていない部屋に入っても剣術は学べないが、昨日追い払われたことで、どんな部屋か見てみたかったのだ。が、部屋の作りは前室の道場と変わりなかった。  なあんだ、と思ったのも束の間だった。最奥の壁に絵が飾られているのにカノラは気が付いた。その絵はフィオレ王朝の栄えていたときの、四つで一つの風景画だった。  思わず、バケツを手から落とした。倒れたバケツから水がこぼれたのもお構いなしに、カノラはネックレスの水晶を触る。 ──カノラ、この絵でまた泣いているのか。この絵は怖い絵じゃないぞ。フィオレ王朝が栄えていたころの絵でな。これを元に、現政府を興した革命家たちが書き写し、守りが鉄壁の城に無傷でたどり着けるように、術をかけたこともある。そんな由緒ある絵なんだ、泣くことはない。  実家の地下室の壁画がここに持ってこられたのか、と驚いて水晶に触れた。が、子供の頃に泣いていた自分を慰めた父の言葉をカノラは思い出した。 「そうか。この絵は革命家が書き写した絵」  飾られている絵に近付き、隅々まで目を走らせた。  右端に文字が書かれている。やはり、この絵は革命家が書き写した絵に違いない。  カノラはその文字を読み上げた。 「ク、ブ、ハ」  突然、日の光のごとく、絵から光が発せられた。眩しさに目を瞑り、両手で顔を覆うカノラ。やがて光は、カノラの全身を包み込んだ。
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