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「デュラ王」  と、潮がひくように周りにいた者がひれ伏す。  王? って…… 「フィオレ王朝の正統後継者」  短くカノラに耳打ちしたプラティは、カノラの頭を押さえて自分もひれ伏す。 「貴様、旧字体が読めるのか」  他のひれ伏した者などお構いなしに、カランデュラは真っ直ぐカノラの前に進み出た。  外の修行から道場に戻ったカランデュラは、奥の間に倒れたバケツを見つけた。それで、カノラがこの奥の間に入ったことを悟った。けれど、本人がいない。まさか、絵の秘密に気付いたのでは? と、カランデュラは絵を使って城跡に来たのだった。カノラが皆の中心にいるのを目の当たりにし、怒り心頭なのであった。  呪文も知らないコイツがここにいるのは、絵に書いてある旧字体が読めた、ということ。奥の間に飾られていた四つで一つの風景画に書かれていた文字は、フィオレ王朝時代に使われていた文字(旧字体)で、今は廃れて読める者はほとんどいない。その旧字体が読めるのなら、雑用係になりたいなどの願いは聞かなかった。不用意に道場を留守にしなかった。カランデュラはカノラに騙された、と感じているのだった。 「きゅうじたい?」  カノラにとって、生まれたときから古書が当たり前のようにあった。旧字体であろうがなかろうが、興味のある本を読んでいたのにすぎない。旧字体が読めることが、特別な能力とは認識していないのだ。  そんなこととはつゆ知らず、カランデュラは怒りをぶつける。 「人を集め、憎き現政府に対抗する組織をつくって何が悪い」  そうか。すべてはカランデュラのせいだったんだ、とカノラは気が付いた。カランデュラが反乱を起こすための人集めのために、フィオレ王朝の財宝の話をした。そうだと知らず、財宝があれば島のためになる、と鵜吞みに信じたプラティが、メイズ山に入ったのだろう。  プラティを探し出して、とカノラがカランデュラに頼んだとき、「一年も練習をさぼっている奴などどうでもよい」「プラティを探し出したい、とは思えぬ」など、答えていたが、あれは全部うそだったのだ。人集めをしていることを気付かれたくなかったのに違いない。  ジェンシャンがカノラの助けを呼びに、役人ではなく、カランデュラの方にいったのも、カノラは頷ける気がした。きっと道場で、フィオレ王朝の財宝の話をしていたのだ。メイズ山に詳しそうな人物に助けを求めたんだ。  カランデュラは目を吊り上げたままカノラを見据えていた。 「掃除をしながら剣術を盗み見て、怪しい奴だと思っていた。旧字体が読めるのだ。貴様、政府側の魔術師だったんであろう?」  
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