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     豪雨災害に遭う前だ。  ペタル村にカランデュラという色白で銀色の長髪の男が、山脈の西の村から単身でやって来たのだ。彼はサーベルの剣道場を開き、弟子を募った。西の村では弟子が集まらなかったので、こちらで道場を開き、得た賃金をもと居た西の村の家族に送るみたいだった。  それまで、稲作しかしてこなかったプラティが、強くなりたい、と彼の道場の門を叩いた。 「デュラ先生に、筋がいいって褒められたよ」  足しげく通うプラティは、道場での様子をカノラによく話していた。 「今度、剣の呪文も教えてもらえることになったよ。弟子の中で、一番乗りだ」  自分が弟子の中でも一番強い、その自負が山の中に入っても力を発揮できる、と背中を押したに違いなかった。 「あのね、ジェンシャン」  切り株に腰かけるジェンシャンに、カノラは意を決したように言い放った。 「おじさんとおばさんに伝えてほしいの。私が謝っていたって」  驚くジェンシャンを置いて、カノラはメイズ山へ駆けていく。  今までも、プラティを探しに何度メイズ山に向かおうとしたことか。  けれど、その度に、 「誰も帰ってこない危険なところには、絶対に行かせられないよ。カノラにもしものことがあったら、プラティはもちろん、親友にも顔向けできないからね。プラティは本当にバカ息子だよ。みんなに心配かけて」  プラティの両親に止められていたのだ。  プラティの両親には、十歳のころから十八歳になる今まで世話になった恩がある。だから、止められたらむげにできなかった。自分で探しに行くことを諦めるよりほかなかった。が、捜索隊までも帰って来なかったとき、「自分が直接、探しに行きたい」という気持ちをカノラは募らせていたのだ。  プラティの両親がカノラの面倒を見ることになったのは、カノラが十歳のころだ。その頃、島にフィオレ王朝の復活を願う団体が現れた。革命後、百年続いている現政府はこれを弾圧した。  カノラの父母は、王政復古など望んでいなかった。が、古書や絵画を扱う商売をしていた。その古書や絵画の中に、フィオレ王朝時代の物があった。それだけで、罪人として役人に連れていかれたのだ。 「カノラ、心配することはない。きっと、容疑は晴れる。それまで、おばちゃんのところにおいで」  父母の友人だったプラティの両親が、手を差し伸べてくれなかったら、今頃どうなっていたことか。  罪人の娘、と周りは冷たかったが、三つ年上のプラティやプラティの両親がいつも庇ってくれた。寡黙なおじさんと、おしゃべりで明るいおばさんは、とてもやさしかった。親思いのプラティも然りだ。  罪人の娘に何をしてもいい、と間違えた解釈をした(やから)がカノラの持ち物を()ることがよくあった。プラティはその度に取り返してくれていた。
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