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そういえば、盗られそうになって未遂になった事があった。カノラがプラティの家に住み慣れた頃だ。
「罪人の娘のくせに、こんなもの持ちやがって。これは盗んだものだろう」
と、通りすがりの村人に、父母からもらった水晶のペンダントを掴まれた。ペンダントは肌身離さず、いつも首からかけていたものだ。プラティが助けに入ろうとしたところで、村人の掴んだ手に電流が流れたみたいな衝撃が走った。
「痛っ!!」
手を放し、「何しやがる?」と、カノラに食って掛かる村人。その両肩を取り押さえるプラティ。
「カノラは何もしていない!」
「は? 触ったら痛かったんだ。何もしてない訳ないだろう!」
「じゃあ、罰があたったんだ。人の物を盗ろうとするから」
「なんだと? 罪人の物だから訳の分からないペンダントなんだ!!」
減らず口を叩いた村人は、プラティを押しのけ去っていった。
違う日にはこんなこともあった。市場で出くわした村人に「こんな娘に、品物を売る必要なんかないよ」と、言われたのだ。
「こっちが、買ってやるもんか」と、横からプラティが啖呵をきって、カノラの手を掴み引っ張ていった。
このまま喧嘩が続いたら、プラティたちまで買い物ができなくなるのでは?
気になったカノラは、市場の外れまできたとき足をとめた。
「気にするな。言いたい奴には言わしとけ」
一つの陰りもない笑顔を浮かべると、プラティは道端に咲いていたシロツメクサを摘んで、
「大丈夫。俺、もっと強くなって、カノラに酷いことする奴から守ってやるから。カノラは一人じゃない。いずれ、俺と一緒になろう」
と、差し出し、結婚の約束をしてくれた。
そうだ、あの時ぐらいからだ、とカノラは思い出した。プラティが「強くなりたい」と、言い出したのを。
周りがどう冷たかったとしても、プラティの家族と過ごす毎日は幸せだった。財宝なんて、どうでもいい。プラティが帰ってこないなんて、嫌だ。優しいおじさん、おばさんが悲しんでいるのは、もっと嫌。
カノラを心配して止めてくれるおじさんとおばさんの気持ちはありがたいが、待っていてもプラティは帰って来ない。
「必ず、プラティを連れ戻してくるから」
カノラは強い決意のもと、メイズ山に向かって力強く駆けていくのであった。
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