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   自分の父母が捕まったとき、家の中にあった本や絵は、証拠としてほとんど持っていかれた。が幸い、役人には地下室が見つからなかった。  一見、扉がどこにあるのか分からない造りになっているのだ。その地下室に入るには、父母がくれ、いつか村人に盗られそうになったあのペンダントの水晶が必要だった。父母以外は、娘であるカノラしか持つことができない水晶。カノラはテーブルをどかした床に、ペンダントの水晶をかざした。それによって現れた扉を使って地下室に入って調べた。  メイズ山に入ると宣言したプラティにも、この古書を見せられたのなら、今とは違う結果だったかもしれない。見せる暇もないぐらい、引き止められなかったのがカノラには残念だった。  書庫のような地下室は、カノラが入るまで、誰も来なかったことを証明するかのように、黴臭かった。  最奥の壁には壁画があった。天井から床までの縦に長い長方形の絵が四つ並んでいた。フィオレ王朝が栄えていたときの風景画だ。四つで一つの城の絵で、コマ割りしているように、春夏秋冬の風景が描かれていた。  四季折々の花が似合う美しい城の絵も、小さい頃は絵の大きさに、怖くなってよく泣いていた。が、メイズ山に関係するフィオレ王朝の歴史の本や地図を片っ端から調べる今のカノラの目には、ただの部屋の風景の一部だった。 「ない。現政府がどうやって城を攻めたのか、書いている本がないわ。重い税に苦しんだ島民が革命を起こした──は、今は関係ないわ。うーん、最終的に『ヨセッメ』という呪文でフィオレ王朝を破り、城をメイズ山に埋めたのは分かるけど……」  父母が捕まったときに、役人が持っていった本の中に現政府が攻めた方法が載っていたのかもしれない。それがあれば、城跡に辿れやすい道がわかるのに。  王政復古を願う団体が反乱を起こしたのは、カノラが十歳の頃だけでない、という余計なことも知れた。この百年の間にたびたび反乱を起こし、その都度、現政府が弾圧している史実が書かれた書物まで見つかったのに、カノラの探している本は見つけられなかった。  こんな風にメイズ山を調べているうちに、幾日か過ぎていた。  調べながら、山に入る機会を窺っていた。プラティの両親が寄り合いで留守になる今日、行くなら今しかない。決意を胸に、メイズ山を見つめていた。ジェンシャンに見咎められるなど、思ってもみなかったのだ。  メイズ山に入った今、薄暗い道で、流れる水音が微かに聞こえた。 「川の音? 間違っていない。あっている」  頭の中に叩き込んだメイズ山の地図と相違がないことに、安堵する。  攻めきれない鉄壁の城といわれたフィオレ王朝の城は、入り組んだ山道と自然の川に守られ、メイズ山の山頂にそびえ立っていたという。  けれど一年半前の土砂崩れで、今使える道はカノラが進んでいる道ぐらいのはず。現状と古書を見比べて、選んだ道だった。だから、先に山に入った人たちの痕跡がなく不安になっていたのだが、 「そうよね。川を渡れば、きっと、城の入り口」  川の音に気力が高まって、足にも力が入った。先ほどまでとは比べるまでもなく、進む速度が速くなっていた。  短めの髪が風に煽られた。向い風がきつくなった、と感じた瞬間ワッサワサと、どこからともなく羽音が聞こえた。上空を見上げると、鷲のような猛禽類の野鳥が群れをなして飛んできていた。  木々に覆われた空間を、いとも容易く滑空してきて、カノラに襲い掛かる。たまらず、悲鳴を上げ、両手で頭を庇う。カノラはその場にしゃがみ込んで動けなくなった。
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