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「レサ」
前方から叫び声がして、庇っていた腕の隙間からカノラは声のした方を見た。そこに刀(サーベル)を構えた男がいた。プラティが「デュラ先生」と呼んでいたカレンデュラだった。
野鳥は突如、迂回して飛び去った。
これが、プラティが言っていた呪文?
啞然としているカノラに、カレンデュラが近寄る。
「大丈夫か?」
頷こうとして、カノラは自分が野鳥の襲撃に震えていたことに気が付いた。
「無茶な真似を」
非難とも同情ともとれる言い方。でも、助けてくれたのだから、お礼をし、
「なぜ、ここに?」
疑問を素直に口にした。
彼がここに来たのは、ジェンシャンによるものだった。
カノラに言付けを頼まれたジェンシャンは、律儀にも寄り合い場に駆け付け、プラティの両親にカノラがメイズ山に向かったことを告げた。
予想外のことに混乱して動けなくなったプラティの両親を残し、ジェンシャンはカランデュラの道場に向かった。
「先生! カノラを助けてやってくれ!」
見ず知らずの女を助けるほど、正義感を持ち合わせていないカランデュラではあったが、豪雨の後に残った数少ない弟子からの申し出に、仕方なく捜索に乗り出したのだった。
何故、役人にではなくカランデュラに助けを求めに行ったのかは疑問だが、ジェンシャンの機転が働かなかったら、あの野鳥にやられていたかもしれない。カランデュラが説明する、ここにきた経緯を聞いて、ジェンシャンがカランデュラを呼ばなかったら、とカノラはゾッとしていた。
古書では知りえなかったが、鉄壁の城は、獣たちからも守られていたのかもしれなかった。
「歩けるなら、帰るぞ」
カランデュラが下山を始める。ぬかるみに足を取られることもなく、長い銀髪を揺らしながら歩いていく。
毎日、修行をしているから平気なの?
彼なら、城跡に行けるのではないか。カノラは先を行くカランデュラに、声を上げて呼び止めた。
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