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「プラティが帰ってこないものだから、カランデュラ先生に乗り換えたのよ」 「家族持ちの人にまで手を出すなんて、必死すぎて下品な子よね」  村にカノラの噂が飛び交っていた。 「いいのかよ。根も葉もない噂をされて」  道場にやってきたジェンシャンは、床拭きに精を出しているカノラに話しかけた。  プラティも、カノラに結婚を申し込んだのなら、メイズ山に行かず、さっさと結婚すればよかったのに。とジェンシャンは思うのだ。プラティの奴、結婚は強くなってから、とか言っていたなあ。既に一緒に住んでいるんだから、俺だったらすぐに結婚するけどなあ。とここまで考えたジェンシャン。今でもカノラが想いを寄せているのはプラティで、自分が申し込んでもどうにもならないことだと痛いほどわかるし、プラティが亡くなったとは考えたくないので、自分の想いは伝えないでいた。  ジェンシャンの複雑な想いに全く気付かないカノラは、カランデュラに弟子にしてもらえないから、雑用係として道場に毎日通えるように願い出たのだった。掃除をする傍らで、練習を盗み見て自分も真似ていたのだ。 「そこまでしなくても、先生がプラティのことも探してくれるって」  ジェンシャンがそう言ってカノラが真似をすることを笑う。デュラ先生に全幅の信頼を寄せているジェンシャンに、デュラ先生がプラティを探す気がない、と言い切ったことは言えないカノラだった。  プラティを連れて帰る、その一心で道場に通い刀の技を習得したいのであったが、ジェンシャン以外の周りの人にはカノラの本心が分からなかった。根も葉もないことを言われたとて、 「言いたい人には、言わせとけばいいのよ」  いつかの、プラティの受け売りだった。ジェンシャンの心配を気にするまでもなく、カノラはジェンシャンに練習の準備を促した。  メイズ山から帰って来た日。無事なカノラの姿に一も二もなく喜んだジェンシャン。が、プラティの両親は、息子が帰って来ないのにカノラだけ無事なことに複雑な笑みを浮かべたのだった。 「おじさん、おばさん。今度こそプラティを連れて帰れるように、剣の修行をするね」  真っ直ぐなカノラに、やるせない思いのプラティの両親は、 「顔にも傷かい。心配かけて。さっさとお風呂に入っておいで」と、カノラを風呂場に急かしたのであった。  メイズ山に入った誰もが帰って来なかったのに、カノラとカランデュラが帰ってきた。この情報は瞬く間に、村に広がった。  情報の一つが、先ほどのような「カノラがカランデュラに乗り換えた」という、やっかみになった。  もう片方は、「カランデュラの道場で修行をすると、メイズ山に入って財宝を持って帰えられるようになる」と、いうものだった。  弟子の志願者が増え、道場は賑わっていた。  練習が始まる時間になった。カノラが床拭きをしている道場にカランデュラが現れた。カノラはバケツをもって慌てて外に出る。弟子たちは決められた場所に整列して、一礼をした。  上座で、カランデュラが数人の弟子の名前を呼んだ。呼ばれた者たちと、カランデュラが奥の部屋に引っ込む。残された弟子は自主練となった。  カランデュラがいないことをいいことに、道場に上がり込むカノラ。ジェンシャンに近付き、 「今のは、どういうこと?」  と、小声で問うた。
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