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婚約者が一年も帰ってこない。
朽ちたログハウスのような自宅前で、十八歳のカノラは一人山の方を見つめていた。婚約者のプラティが、一年前に入っていった山だ。
ここは太平洋の片隅に浮かぶフィオレ島。輪のように連なった山脈が島の中央にある。まるで、中央が盛り上がっている向日葵の花を水に浮かべたような形の島だ。温暖な気候で、みな主に農業や漁業を生業としていた。カノラたちは山脈の東の麓にある、ペタル村に住んでいる。
プラティも両親のもと、稲作に精を出す好青年だった。
「また、メイズ山を見てんのかよ」
プラティの友人のジェンシャンに見咎められた。新品の鍬や鋤を担いでいるところを見るに、購入した帰りのようだった。プラティと同じように日に焼けた顔だ。が、スマートな顔つきのプラティと違って、ジェンシャンは親しみのあるジャガイモのような顔つきだった。
「悪い?」
カノラの生き生きと澄んだ大きな瞳も、このところ浮かない色になっていた。溌剌としたショートヘアも元気がない感じだ。
一年半前の豪雨がなければ、プラティはメイズ山に入っていかなかっただろう。
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