第二章 佳生

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 思いたったら即、行動する。  俺はさっそくアルバイト先の大将に相談してみた。 「酒の勉強? ソムリエにでもなるのか?」 「ワインだけじゃなくて、もっと幅広く料理に合う酒を勉強したいんですよね。十八歳じゃだめですかね」 「俺も自分の好みで選んでるだけだからなぁ。独学でもいけそうだけど」 「俺、大将みたいな味覚ないですもん。なんかそれなりにきちんとやりたいな、と思って」 「ああ、俺の友だちにバーテンダーがいるぞ。ここにも時々客で来てる。聞いてみるか?」 「お願いします!」  こうして、バーテンダー見習いが始まった。  小料理屋では店の名前入りTシャツだったので、鏡のなかの白シャツには違和感しかない。それでも、179cmの身長で筋肉質な体型にカマーベストを着れば、いっぱしの大人になったような気がする。散髪代を惜しんで伸びた髪もヘアゴムでくるりと団子にまとめた。女性客のなかに来店頻度が増えた人がいるらしく、マスターは苦笑いしていた。  とはいえ、俺は初めて見る道具や酒の種類を覚えるだけで手一杯だ。ノンアルコールのモクテルから練習を始め、徐々にレシピを覚えていく。後には技能認定試験にも合格し見習いから昇格した。    マスターは新しい道具を試すのが趣味のような人で、燻製器やエアフライヤーを持ちこんでつまみを作った。「酒を飲むときは全く食べない人もいるが、料理にあう酒があるように、うまい酒にあう料理もある。どっちがどっちじゃなくてお互いさまだな」  そういえば小料理屋の大将も似たようなことを言っていた。「調理の仕方と良い材料は活かしあうもんだ。どっちかに頼りっきりじゃない」  俺はふと、自分と朋希もそうなれるといいなと思う。支えあいなのか引き立てあいなのかわからないが、そんなものになりたい。
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