第二章 佳生

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 バーには様々な職種の人たちが客として来店する。  そのなかには酒にまつわる業種もあり、いつも閉店間際にくる若い男はそんな仕事をしているようだった。髪は金色でいかにも高そうなスーツを着ている。  カウンターに座り「この酒はご褒美」と、ロックのウイスキーをうれしそうに飲む。仕事で飲む酒とは味が違うのだろう。たいした会話もしなかったが、なぜかその男にスカウトされた。  ホストクラブのキャストなんて未知の世界だが、俺は転職することにした。目的は「朋希と始める店の開業資金を貯めるため」それのみだ。  これまでも給料のほぼ半分を貯金に回していたが、アルバイトや見習い期間は満足な金額にならなかった。母親に渡す生活費も申し訳程度だ。もう少し稼がないとなと思案していたところだった。渡りに船と言うやつかもしれない。タクヤと名乗ったその男は、余裕のある笑顔を浮かべている。 「ナンバーワンは俺だけど、頑張ればお前もそこそこにはなれそうだよ」  俺は迷わなかった。
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