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第三章 夢の形、愛のカタチ
佳生がくれる言葉はいつでも僕を楽しい気持ちにする。
それは出会ってからずっと変わらないし、顔の見えないメッセージであろうと関係ない。
だけど三年前のあのときだけはちょっと違っていた。
佳生は高校を卒業後、それまでやっていた小料理屋のアルバイトからバーテンダーになっていた。僕はレストランの職に就いて三年目。下っ端仕事ばかりの毎日を、それでもなんとか続けていた。
『俺、ホストになることにした』
メッセージを受け取って困惑する。どういう意味だろう。ホストって何をする人だっけ。直接聞かなくてはとても理解できそうにない。返事の代わりに電話をかけた。
「もしもし、どしたー?」
「あ、あれ何? どういうこと?」
焦りすぎて何を聞きたいのかわからない僕とは対照的に、佳生はのんびりした口調だ。
「あーホストのこと? バーのお客さんにやってる人がいてさ、紹介されたんだ。来月からやるよ」
「来月って、もう明後日じゃないか。そんな急に言われても。そもそもホストって何をするの? お、女の人となんか……」
「朋希、落ちついて。急に連絡したのは悪かった。もっと早くに決まってたんだけど引っ越しとかでバタバタしてたから」
「引っ越したの?!」
驚きに声が裏返る。
「うん、今日ね。あ、でも遠くじゃないよ。母さんと生活時間がずれて迷惑かけそうだし、実家を出るタイミングを探してたからちょうど良かったんだ。新しい店は繁華街のまんなかだけど、近くに寮があって通勤が楽だから助かる」
「お母さんは反対しなかった?」
佳生の家は母子家庭だ。彼が実家を出たら母親の美佳さんは寂しいだろう。自身の祖母を思えば、朋希が家を出るなど考えられなかった。
「しっかりやれって言われたよ。俺が転職するのは開店資金を貯めるためだからさ。ついでに接客スキルも磨いてこいってさ」
そうだった。
僕は平静さを取り戻した。彼の行動原理は、十五歳で僕と約束した時から何も変わらないのだ。そして、言葉だけでなく行動そのもので常に僕を勇気づけてくれる。
「佳生ばっかり、ごめん」
こんなことで動揺する自分が情けない。彼は、僕とふたりで飲食店を始めようと脇目もふらず歩いているのに。
「俺ばっかりじゃないよ。朋希がいてくれるこそなんだ。朋希が頑張ってるから、俺も頑張れる。朋希は?」
「僕もだよ。高校を卒業できたのも、今の仕事も佳生が励ましてくれるからやれてる。だから佳生ばかりが大変なんじゃないかと思っちゃうんだ。絶対、無理はしないで」
「無理はしない。でも疲れたら朋希の飯、食いにいく」
「え……僕、まだ全然だよ」
「お茶漬けでいいんだって。朋希が作ってくれるのが大事なんだから」
「そのために二時間かけて来るの?」
「おう、二十四時間営業のレンタカーあるしな」
「それじゃかえって疲れちゃうよ」
「そんなの朋希の顔を見れば一発だ。だから朋希も何かあったらすぐに連絡してこいよ。いや、何もなくてもいいし、何時でもいいんだからな。すぐに飛んでいくから」
それは彼の本心からの言葉だろうと思う。でも軽い口調のせいか僕には冗談みたいに聞こえておもわず笑った。
けっきょく会話の終わりには、佳生から元気をもらうのだ。
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