第一章 朋希

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 修学旅行が予想よりずっと楽しく終わり、すぐにテスト週間が始まった。いつもより空気が重苦しい教室も、昼休憩は明るくなる。 「おまえ、また弁当ないのかよ」 「忘れたんだよ」  快活な佳生の周囲はいつも賑やかだ。横を通る人がみんな彼に話しかけていく。どうやら今日は弁当を忘れてしまったらしい。 「だから、その唐揚げくれよ」 「やめろ! 五時間目体育なんだぞ。このウインナーやるから」 「サンキュー。おまえと友だちでよかったわ」  こんどは後ろの席の友だちと話している。迷ったが、やっぱりお腹を空かせた人を見過ごせなかった。 「あ、あの……よかったら」  たったこれだけを言うのにも渾身の力が必要だ。 「僕が作ったから、味は保証できないけど」  彼は突然声をかけられて驚いていたが、すぐに笑顔になった。僕が差しだすおにぎりを、いただきますと言って手にとる。  じゃこと胡麻を混ぜたおにぎりは祖父も好きで、何度か作っているうちにきれいな三角ができるようになった。家族以外に食べさせるのは初めてなので緊張する。  最後のひと粒まで噛みしめるようにして食べ終えた彼は「ごちそうさん、すごくうまかった!」と言ってくれた。  初めて真正面から見る顔は、笑うと目が垂れてとても優しそうだ。水族館で見たイルカみたいだなと、ちょっとだけ思った。  
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