第三章 夢の形、愛のカタチ

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 佳生という存在はどんなときも僕を奮い立たせてくれる。その信頼は揺らぐことはなく、今こそ彼の力を借りたいと切望している。僕はメッセージを送ったスマホを手にして祈った。  祖母の清子が風邪をひいた。  ひと月前に八十八歳のお祝いをしたときは、僕が作った料理を美味しそうに食べていた。佳生がローストビーフを行儀悪く食べるのを見て、美佳さんと一緒に笑っていたのに。 「このまま入院になると思います」  田仲医院の先生は、息子さんに代替わりしても変わらず往診してくれる。高齢のうえ咳と高い熱が続いているので入院設備のある病院に連絡してくれた。  迎えの車が到着するのを待つ間も、頭の中には祖母の声が繰り返し聞こえている。  祖父の太一との別れがあまりに突然だったので、それ以来清子は何度となく僕に言っていた。 「順番なんだからね。寂しいけれど気に病むことじゃない。おばあちゃんはいま幸せで幸せでたまらないから、おじいちゃんに聞かせてあげるのを楽しみにしてる。きっと悔しがるだろうね」  現実になってほしくない、という僕の願いは叶わなかった。  風邪からの肺炎で入院し十日目。年が改まり太陽が顔を出そうかという時刻にその瞬間は訪れた。苦しげに上下していた胸は静まり、口元には微笑みさえ浮かべているようだ。 「もうおじいちゃんと会えたのかな」  僕が涙声で言うと、仕事を終えて駆けつけた佳生がそっと肩を抱いてくれた。      
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