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「朋希!」「朋希くん!」
焦ったように名前を呼ばれ、間近で顔を覗きこまれていた。視線を動かすと見慣れたリビングの天井が目にはいる。もしかして、一瞬の間に眠ってしまったのだろうか。
「よかった……気がついた」
佳生が安堵したように肩を落とす。
「えっ……僕」起きあがろうとするのをやんわりと制止された。
「私たちを見てそのまま倒れちゃったのよ。気分どう? 熱はなさそうね。気持ち悪くない?」
美佳さんの手のひらが僕の額に触れている。どうやら僕は気絶をしたらしい。驚いた。
「大丈夫」やっとそれだけ言えた。
その後は、なぜか佳生に抱きあげられベッドに運ばれてしまった。ふたりとも泊まったことがあるので勝手知ったるだ。
「母さん、ドア開けといて」
「りょうかーい」
「朋希、抱えるぞ」
「待って、立てるから。それに部屋散らかってて」「おろすぞ」「あ、うん」
「パジャマどこだ」
「これでいいんじゃない?」
「そうだな」「待って、自分でできる」
「ほら、脱がすぞ」「あ、はい」
こうしてスーツからスウェットに着替えた僕はベッドに寝かされ、胸の上を佳生の手でとんとんとされている。
「眠かったら寝ていいぞ」
「大丈夫、目はさえてる」
三日ぶりに自分のベッドで横になっているが、今は眠れる気がしない。
「ふたりともお腹空いてない?」
自身も着替えをした美佳さんがドアから顔をだした。
「そういや、もう夕方だな。朋希は? 食べられそうなら食べたほうがいいぞ」
「僕が作るよ」
「「駄目!」」
ふたりから息ぴったりに言われてしまった。
「それなら、冷凍庫に焼きおにぎりとうどん玉があるので」
「じゃあ煮込みうどん作るわね」
数時間前には化粧が剥げるほど泣いていた人とは思えない明るさで、美佳さんがキッチンに向かう。
「ほっとしたら腹減ったな」
自分のお腹をさすりながら、佳生が眉を下げている。
「佳生も着替えなよ」
まだネクタイを外しただけのスーツ姿だった。僕を優先して自分を後回しにするのは佳生の癖だ。何度か言ってみたが、そのたびに直す気はないと返事をされた。
「さっきはごめん。僕、重かっただろ」
着替えを手伝われているのだからばれているはずだが、僕は自分から水を向けた。
「どのくらい食べれてないんだ?」
「まったくじゃないけど……おばあちゃんが入院してからはゼリーとかしか」
「二週間もか。悪かった。俺がもっと頻繁に帰ってれば」
「違うよ。仕事もあるのに何回も顔を見せてくれて、心強かったけれど申し訳なくて。今だってずっといてくれるし、仕事大丈夫なの?」
「去年のうちに辞めるって言ってあるから心配すんな。引退パーティーの日程を調整してるから、決まったら言うつもりだった」
「パーティーするの?」
「なんかタクヤさんが言い出してそうなった」
「あいかわらず人気者なんだ」
「外面いいの、知ってるだろ?」
そう言って笑う顔がこの三日間は何度も涙を堪えていたのを、僕は知っている。
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