第三章 夢の形、愛のカタチ

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 ベッドで食べさせてやるという申し出はなんとか辞退してリビングに戻った。  祖父母と僕の部屋以外には、キッチンと続く広めのリビング、それに水回りがあるだけの小ぢんまりとした家だ。祖父がまだ若いうちに自分が働く会社に発注して建てたと聞いた。リビングはフローリングにカーペットを敷き、まんなかに座卓が置いてある。僕は一日の大半をここで過ごしてきた。  座卓も建築資材で祖父が自作したものだ。その上に、いまは湯気までおいしそうなうどんと焼きおにぎりが並んでいる。  ぐぅ、と僕のお腹が鳴った。ふたりにも聞こえたのか動きが止まる。しかし次の瞬間には、ふたりとも破顔して手を合わせた。 「よし、食べようぜ」「いただきます」  僕に気を使わせまいと、さっそく食べ始める。そのあたりも息がぴったりだ。さっき聞こえたはずの会話にも触れないでくれる。  僕はうれしくて胸がいっぱいなのか、羨ましくて胸が塞ぐのかよくわからない。でも不思議と、少しも嫌な感じはしなかった。  食べ終わるとすぐに横になれと言われたが、僕はふたりにお願いごとをした。 「あちらの家におばあちゃんも入れてあげたいんだ」僕の言葉に頷いて同意してくれる。 『あちらの家』とは小さな家型のことで、リビングに置いた茶箪笥の上にある。屋根と三方に壁があり、開いた前面にいまは祖父の写真だけがある。つまり、あちらの家なのだ。「あっちに行っても自分の作った家がいいからな」と、これも建築資材で祖父が手作りしたものだ。経年で落ち着いた色になった家に、祖父母が笑顔で並んでいる写真を飾った。祖父が七十歳になったお祝いのときだから、十二年前の写真だ。佳生とはまだ出会っていなかった。 「おばあちゃん、お若くてきれいね」 「なんかラブラブだな」  幸せそうなふたりが僕たちを見つめている。この家を遺してくれてありがとう、と胸のなかで伝えた。  
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