第三章 夢の形、愛のカタチ

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 翌日、仕事始めの田仲医院で診察を受けた。  僕にはこれといって持病もないし祖父のように高血圧でもないが、念のため大きな病院で検査をするように言われた。脳の検査や心電図まで必要だと言われ、ほんの数秒のことなのにと驚いた。 「今回は過緊張からの一過性のものだと思うけど。それよりも……自分の身体は自分だけのものじゃない。おじいちゃんやおばあちゃんが、大切に育んでくれたものだ。この意味わかるね? 今日は点滴もしておこうか」  口調まで先代の院長先生に似ているなと他人事のように思ったが、肋の浮いた身体を診れば一目瞭然だろう。僕は待合室にいる佳生にもう少し時間がかかりそうだ、と告げる。 「じゃあその間にちょっと用事すませてくるわ。終わる前には戻るから、ここで待ってろよ」そう言うと、看護師さんに「自分が戻るまでよろしくお願いします」と頭を下げて出ていった。  その後の検査でも特に異常はなく、そのことにはほっとした。だが、不安材料がすべてなくなったわけではなかった。 「目が覚めたのか?」  そう言ってベッドの下に敷いた布団から僕を見ている佳生も、僕のせいで目が覚めたのだろう。 「うん……」 「水、持ってくるよ」  僕は一度見た夢がきっかけで、眠るのが怖くなっている。  夢の中でこどもの僕が男女ふたりの背中に何か言っている。何度か声をかけても振り返ってもらえないまま女の人は歩いていなくなった。僕はもう一度男の人に声をかける。ようやく振り向いた顔は僕自身だった。能面のように表情のない僕が僕を見ている。そこで目が覚めたのだ。胸がバクバクしてじっとりと汗をかいていた。  その時の嫌な感じを思いだすだけで、なかなか寝付けない。
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