第三章 夢の形、愛のカタチ

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「引退パーティー、バレンタインの日に決まった」佳生がそう言ってきたのは、一月があと数日で終わる頃だ。  祖母を見送ったあとも僕の体調を心配してそのまま同居している。ホストクラブの寮もすでに引き払っており、けじめとしてのパーティーが予定されていた。聞けば、過去に売上三位になったこともあるらしい。 「えっ……それってすごいんじゃ?」 「たまたまだよ。でもいい経験させてもらったから、最後はがんばって集客しなきゃな」  にやりと笑った顔は、僕が見知ったものではない。軽い驚きとともに、きっと僕の知らないいろいろな出来事があったのだろうと思わせた。 「僕も頑張らないといけないね」  昨年のうちにオーナーに開業の意思は伝えてあった。祖母のことがあり、たまった有給休暇を消化して今月末で正式に退職となる。クリスマスのディナーをきっちりと働けたのはよかった。 「うちのレシピを使ってくれてもかまわないからな。きっといい店になる。楽しみにしてる」憧れのオーナーに声をかけられて、弱くなっている僕の涙腺は決壊寸前だった。オーナーに恥をかかせないためにも、くよくよしてばかりはいられない。 「ゆっくりでいいよ。庭、いい感じになってるじゃん」  祖父のときは、もとの生活に戻るまでに三ヶ月かかった。今もあのときのようなリハビリ期間を過ごしている。開業準備に奔走する佳生をそばで見る僕の気持ちを、一番知っているのも彼なのだ。 「あの三ヶ月で朋希はそれ以前より強くなった。骨折した骨は強くなるって言うだろ?」 「あれ、誤解らしいよ。おばあちゃんが怪我をしたときに色々調べてて知ったけど」 「え? そうなの? うわ、俺カッコ悪い」 「でも、僕は強くなれたって思う。あのとき頑張れたから友だちもできたし、高校にもいけた。全部、佳生のおかげだ」 「そう言ってくれるとうれしいけどさ、まだまだこんなもんじゃないからな」  いつもの笑顔が、この暮らしに続きがあることを信じさせてくれる。  有言実行がモットーの佳生は、引退パーティーで過去一番の売上げを達成した。
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