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二学期が始まる日の朝、そろそろ起きようと思っていると僕を呼ぶ祖母の声がした。ただならない様子に飛びおきる。
寝室に入ると祖母が腰を抜かしたように座りこみ、祖父はまだ布団にいた。その静かすぎる寝顔に、なぜかもう目覚めることはないとわかってしまう。
「朋希……おじいちゃんが……」
立ちつくしているとそっと引き寄せられ、動揺して震える肩をなでられる。その手も細かく震えていて、僕はなんとか気持ちを保つ。「おばあちゃん、僕が田仲先生に電話するよ」
近所にある田仲医院には家族全員がお世話になっている。医院の裏に住む先生には、以前も往診してもらったことがある。祖父は体質的に血圧が高く、定期的に通院していた。
僕たちは互いに支えあうようにして、なんとか立ち上がった。
すぐに院長先生とその奥さんが来てくれて、そこからはまるで薄いカーテン越しに景色を眺めているような気分だった。
いったん運び出された太一が自宅に戻り、同じ市内に住む祖母の妹の啓子と、太一の仕事仲間が駆けつける。七十三歳で突然旅立った太一とのお別れは、親しかった人たちで行うことになった。
家の玄関で言い争うような声がしたのは、近所の人たちが通夜に来てくれた後だった。
祖父母の娘、つまり僕の母親が帰ってきたのだ。菜々子という名前を久しぶりに聞いた。八年前、僕も一度だけ会ったあのおじさんと再婚し、その人の連れ子と三人で暮らしている。僕を産んだ人だけど、もう僕のお母さんではない人だ。啓子おばちゃんが「自分の親も子も放りっぱなしで」と責めている声を聞き流した。
目も合わさなかった女の人は「また明日くるから」と言って、そそくさと出ていった。
「また明日」その言葉が僕の心をとらえた。
翌日の告別式には、担任の先生と一緒にクラス委員の藤田さんと佳生も参列してくれた。彼の顔色が悪くて心配になったが、ひとことも言葉を交わせないまま帰っていった。
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