第一章 朋希

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 祖父を悼む人たちで、悲しみのなか見送りを終えた。祖母は散々泣いた疲れと気落ちからか、その後体調を崩した。  僕は率先して家事をし、おばあちゃんの世話を焼いた。啓子おばちゃんが「これなら安心ね」と泣きながら褒めてくれた。 「すぐに元気になるから」そう言って笑うおばあちゃんと「約束よ」と返す啓子おばちゃんがよく似ていて、やっぱり姉妹なんだなと思う。  祖母は約束どおり五日ほどで回復し、ときおり涙ぐむことはあるが、ほぼ以前どおりの日常生活に戻った。  いっぽうの僕は、自分もすぐに登校できると思っていたのに二週間以上たった今も休んだままだ。登校しようとすると「もう少しゆっくりしてからね」と言われるのだ。  今日は祖母に連れられて田仲医院を訪れている。 「おばあちゃんは、だいぶ良いようだけど朋希くんはどうかな? 疲れてない?」  初老の院長先生に、のんびりとした声で尋ねられた。自分に質問されるとは思っていなかったから返事が遅れる。 「眠れてるかな? ご飯は食べてる?」 「あっ……」  眠くないのもご飯がおいしくないのも、あまり身体を動かしていないせいだと思う。「子どもは遊ぶのと食べるのが仕事だからな」と笑ってくれた祖父はもういない。ほんとうは何をするにも億劫なのだが、祖母に心配をかけたくないのでいつもどおりに過ごしている。何か問題があるのだろうか。 「泣かずにおばあちゃんを助けて、ほんとによく頑張ったね。どこか、痛むところとかはないかな?」 「痛いところ?」と僕は不思議に思う。頭や手足だけでなく、どこにも痛みなどない。ゆっくりとした調子で問いかけは続く。 「今は何がしたいかな。どこか行きたいところとかはある?」  その瞬間、胸のまんなかがぱんっと弾けたような気がした。言葉が勝手に口をついてでる。 「学校に行きたい! 学校に行かせて。有木くんと約束したんだ、また明日って。お願いだから学校に行かせて」  一緒に暮らす十二年の間にこんなにも大きな声で話すのは初めてかもしれない。祖母が驚いて目を丸くしている。  それから担任と養護教諭、さらにスクールカウンセラーの先生と話し合った。やっと登校が認められたとき、カレンダーは十月になっていた。
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