22人が本棚に入れています
本棚に追加
「新山!!」
「有木くん、保健室では静かに」
養護教諭は生徒たちからさなえ先生と呼ばれる三十代の女性だが、男子生徒にも容赦がない。走りこんできた彼に対し、人差し指を口に当ててキリッとした表情をする。
佳生は肩を上下させて頷いた。
「有木くん……」
その瞬間、僕の目から涙が溢れ出た。悲しくもないのに、あとからあとからこぼれ落ちる。ひと目も憚らず泣く僕の横で、付き添ってくれた祖母もハンカチを顔にあてている。
「これから話すことは新山くんのプライバシーに関わることなの。事前に新山くんとも、有木くんのお母さんとも相談したうえで、ここに来てもらいました」
僕が落ちつくのを待って、さなえ先生が話し始めた。担任とスクールカウンセラーも同席している。
「新山くんは家族を喪うというとても大きなショックを受けて、自分の感情を表したり、眠ったり食べたりといったことが、うまくできなくなっているの」
自覚はなかったが、祖父を見送る間、僕は一度も泣かなかった。悲しむ祖母の手助けをしたいと思っていたが、味見もせずに作った食事はいつもと違う味だったらしい。
表情を失くした顔は、頬がこけ、寝不足から日に日に色を悪くしていたらしい。祖母が登校を心配するのも無理はなかったのだ。
「新山くんとご家族の関係は少し聞いたと思うけれど、新山くんは、幼い頃にも今回のような状況を経験しているそうなの」
僕のことを佳生に話すのは承知しているし、田仲先生にしっかりと診てもらっている。さなえ先生はそれでも心配そうに僕を見た。
最初のコメントを投稿しよう!