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朋希の両親は大学の同期生で、卒業してすぐに妊娠がわかり結婚している。しかし父親は結婚直後から妻を馬鹿にするような言動をするようになり、生まれた長男にも情愛を抱かなかったようだ。「うるさいから黙らせろ」と見向きもせず、やがて帰宅しなくなった。朋希が三歳のとき正式に離婚しているが養育費を一括払いして縁が切れている。夫から罵倒され続けた母親も朋希を構わなくなり、祖父母が養育することになった。両親から打ち捨てられ生育の遅れた朋希が、祖父母から愛情を注がれ屈託なく笑えるようになるまでには、長い時間が必要だったのだ。
「新山くん自身が強く希望しているので登校することになりましたが、リラックスして過ごせる環境が必要なの。それを先生たちは心配しています。でも有木くんの存在が新山くんの励みになるかも、とも思っています。有木くんはどうかな? 重荷に感じるようなら、無理はしてほしくないんだ。だからといって君たちが友だちなのは変わらないからね」
静かな室内に、さなえ先生の言葉だけが聞こえる。
「重荷になんかなるわけない」
佳生がためらいもせず言い切った。
「新山……朋希は、俺にとって一番大事な友だちなんだ。俺が家に呼んだのは朋希ひとりだし、朋希とおじいちゃんがいなかったら受験しようとも思わなかった。諦めて逃げようとしてた俺に、そうじゃないって教えてくれたのは朋希なんだ。これからもずっと大事な友だちだ」
保健室のなかの緊張した空気が一瞬で緩み、先生たちが目と目をみかわしている。
僕の方を向く佳生は満面の笑顔だ。僕は再び涙をこぼしながら、それでも精一杯笑い返した。
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