優太side2

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年月は流れ、優太は小学5年生、年齢的には10歳となった。 その間小さなことならいろいろとあったが、特に大きな問題はなかった。 姉も祖父も病気一つなく元気だ。 頑張って愛想よくした結果、学校で優太が避けられることはなくなった。 高人とは縁があるのか、ずっと同じクラスだ。 教室でたわいもないことを話したり、休日には時々遊んだりもする。 仲の良い友人となった。 やっと自分は普通の存在になれたのだろうか? それはよく分からない。 普通とは定義が曖昧だ。 「ねえ、今日も晴美可愛い」 ある日の休み時間、もう一人の 友人の晴樹が、前の席にいる少女晴美を見て鼻を伸ばした。 晴美はこの学校で一番の美少女らしい。 言われてみると大きくぱっちりした目、透き通るような肌、 小学生にしては手足が長いすらりとした体形をしている。 何より彼女はクラスの人気者で、 昼休みには男女問わずクラスメイトに取り囲まれていた。 「思ったんだけど俺の名前の一文字、あいつと同じだし、赤い糸で 結ばれているんだよ」 そう言ってニヤつく晴樹。 「バカな」 「偶然だろ」 高人と優太は同時にツッコんだ。 その瞬間、晴美がこちらに目を向けた。 「うわあ!俺を見た!」 晴樹は興奮したように小声で叫んだ。 「頬赤らめてたし、絶対あいつは俺のこと好きだよ!」 「・・そうか?」 首をひねる高人。 一方優太は「好きってどういうこと?」と晴樹に聞いた。 その答えに晴樹は「そりゃ好きは好きさ」と言った。 「好きと言えば、僕も家族が好きだけど・・」 優太が小さくつぶやくと「そういう好きじゃない、俺のは恋愛だ、 大人の感情だ」と、晴樹は得意げに言った。 「お前にもいないか? この人を見ると胸ドキドキして、ひとり占めしたい相手が 何でもないときでも触れたい相手が」 「それは・・」 優太が思い浮かべる相手はただ一人だった。 その日の昼休み、事件が起こった。 「私、優太君が好きなの」 「え・・」 優太は戸惑った。目の前にいる少女はさっき話題にしていた晴美だったのだ。 先程晴美は優太をこの空き教室に呼び出すと、いきなりこう言ってきた。 「好きってどういう・・」 優太の問いに晴美ははにかんだ笑みを浮かべた。 「もちろん、恋愛としての好きってこと」 「・・」 「前から私は優太君のことが気になっていてずっと見ていた。 だから私、優太君とお付き合いしたい」 (彼女が見ていたのは晴樹じゃなくて僕だったのか・・) 事実を知った優太は困惑した。 もしこれを晴樹が知ったらどうなるだろうと思うと 気が気ではなかった。 「・・お付き合いって何?」 「それは・・2人でお昼休み過ごしたり、学校行ったり、休みの日には 2人で遊ぶってことだよ」 「・・それは友達とどう違うの?」 優太の問いに晴美は「違うわ」と告げた。 「ちょっと手を触ってもいい?」 晴美はそう告げると優太の手を取った 「・・もしお付き合いして仲良くなれたら・・こうやって手を握ったり ぎゅってしたり・・それ以上のこともしたい」 晴美は期待したように優太を見つめた。 そして優太の左手ごと自分の手を引き寄せ、優太に自分の頬に触らせた。 するすると、晴美は自分の頬を優太に撫でらせる。 自分とは全く違う頬の滑らかさ、暖かさが優太の手に伝わった。 その瞬間、優太の中に激しい嫌悪感が湧いた。 「やめろ!」 優太はそう叫ぶと晴美の手を振り払った。 「ゆ、優太君・・」 晴美は呆然と優太を見つめた。 やがてその表情はじょじょに怯えたものへと変わっていた。 「ご、ごめんね!」 晴美はそう叫ぶと教室を出て行った。 一人教室の取り残された優太はしばらくその場から動けず、荒く呼吸することしかできなかった。
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