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イードは、換気が十分にされたことを確かめると、まだ日は高いが、閉ざした窓に帳を下ろしていく。
それからフェリチェに向き直り、戸締りと、誰が尋ねてきても居留守を使うことをよくよく言い聞かせてから、玄関に向かった。
「ちょっとギュンターに会ってくるから」
「待て。……帰って、くるか?」
「そのつもりだけど……ああ、ごめん。嫌か。襲われそうになった男と夜を過ごすなんて、不安だよな」
フェリチェは、小さく……だが確かに、否定するように首を振る。
「違う。……不安がないわけではないが、こんな時に一人はもっと不安だ……。フェリチェは、今も匂ってるんだろう?」
「そうだね」
「戸締まりしたって、怖いものは怖いぞ……。一人にしないでくれ」
「チェリ……。わかった、君が許してくれるなら、暗くなる前に帰ってくるって、約束するよ」
閉まる扉で見えなくなる背中に向かって、フェリチェは声を掛けた。
「そう言って、この髪がもとに戻るまで帰ってこないなんてのは、なしだぞ!」
「心配いらないよ。俺がチェリに嘘をついたことなんて、ないだろう?」
それは間違いなくそうだと、フェリチェも自信を持って頷けた。
やがて扉が閉まり切ると、表から鍵が掛かる音がして、イードが走り出す音も遠ざかっていった。
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