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(おまけ)ギュンターは大丈夫じゃない
フェネットの娘に、クマみたいだなと言われた所以の大きな体躯を萎れさせ、男は決して小さくはないため息をついた。
ギュンターは、休憩時間ゆえ構いはしまいと、自警団の団服の襟を緩める。だがなにも、詰襟が窮屈でため息が漏れたわけではない。
心に引っかかっているのは、うっかり目撃してしまった、己が主人の危うい場面だ。
あれからもう十日も経つのに、ギュンターはいまだにイードの目をまともに見られていない。
「はあ……それがしの育て方に、過ちがございましたかなあ……」
殿下と呼んでいた頃から、窮屈な城でルェディの素直な心根が腐らぬようにと、他の王子の侍従らに比べたら甘やかして育てた自覚はある。
イェディエルに生まれ変わってからの人生は、それこそ何にも縛られることなく自由に生き直して欲しいと……、そばで見守る以上のことをしてこなかった。
「のびのび、させすぎましたかなあ……」
興味関心の赴くところ、なんでも行動あるのみの主人だとは承知していたが、特殊な性癖を持っている……かもしれないとは全く想定になかった。
何か話したい様子のイードから、いつまでも逃げ回っているわけにもいかないのに、ギュンターは真実を聞くのが恐ろしくてならない。彼にとってイードは、主人でありながら我が子同然。いつまでも可愛い坊ちゃんなのだ。
「いやいや……もしかしたら、坊ちゃんではなく……フェリチェ殿のご趣味という可能性も、なきにしもあらず……」
わずかな希望に賭けてみるが、あの闊達で爛漫としたお嬢さんの口から、「今日は目隠しで愉しませてくれ」などという要求が飛び出すとは思えなかった。いや、考えたくないというのが正しいのかもしれない。
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