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序章 失恋したけど、めげるものか。花婿を狩りにいくぞ!
――拝啓。お星様の彼方にお住まいのお母様。フェリチェは今日、大人フェネットの仲間入りを果たしました。わたくしはこれから、愛しのレナード様を、花婿として迎えに街へ降ります。どうぞお見守りください!
木の葉にチャルミの根っこで書いた手紙を、墓前に供えてきたのは今朝のこと。
期待に胸を膨らませたフェリチェは、フェネット族特有の大きな耳と、優美な曲線を描く尻尾をピンと立てて山を降りてきた。
すべては愛しい婚約者に会うために。
二ヶ月ぶりに彼に会ったら、迷わずその胸に飛び込むと決めていた。成人したことを告げたら、彼は喜んでフェリチェを抱き上げてくれるのだ。そして人々に祝福されながら、二人はフェネットの里へ送り出される――そんな理想を思い描き、フェリチェは頬を紅潮させていた。
それなのに、現状はどうだ。
二人を取り囲む人々の顔に、祝福の色はない。おろおろ戸惑いを露わに見守る者、野次馬根性丸出しで楽しそうに爪先立つ者。
その中心にて、フェリチェは天を仰いだ。
白雪のような柔らかな耳は力無く垂れ下がり、柳の尾は股の間で寂しげに揺れる。
――拝啓。星々のお庭にお住まいのお母様。フェリチェはどうやら、失恋というものをしたようです。
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