序章

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序章

「お前の心は要らない。身体だけよこせ」  和泉理人(いずみりひと)の目の前には、圧倒的な支配力を持った男、佐原真(さはらしん)がいる。  その漆黒の目で見つめられただけで、和泉の足はガクガクと震え、今にも(ひざまず)きそうになる。  和泉の愛している相手は佐原じゃない。  叶わない想いを抱えたまま、欲望を満たすためだけにプレイをする。そんな関係を結んではダメだと頭ではわかっているのに、身体は強烈にDomからの支配を求めている。 「Kneel(跪け)」  和泉に対して、佐原から支配のためのコマンドが下された。  ここで跪いてはいけない。和泉がSubだということが佐原に知れてしまう。その事実は、必死で隠し通さねばならないのに。  わなわなと全身が震える。身体だけじゃない、なけなしの自我が嫌だ嫌だと叫んでいる。それでもDomのコマンドには決して逆らえない。  和泉はその場に崩れ去るように膝を折り、スーツ姿のまま床の上に尻をついてぺたんと座り込んだ。  これはSubがDomに服従するときの基本姿勢だ。主であるDomに従う飼い犬のようになり、地面に座り、頭を垂れるのだ。 「お前、やっぱりSubだったんだな」  佐原から非情な言葉をピシャリと浴びせられる。だが本能は待ち望んでいた。理性とは裏腹に、Domに支配されることをずっと求めていた。  身体中が強烈な快感に目醒(めざ)めていく。Domに隷属できることが嬉しくてたまらない。 「さぁ和泉。プレイの始まりだ」  乱暴にネクタイを引っ張られ、和泉は強制的に佐原に上を向かされる。  飢えた身体は本能に悦び、Domに支配されようとも、心は決して預けない。  和泉にはすべてを捧げると心に決めた相手がいるのだから。
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