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「こんなおいしいアップルパイを作れるなんて。ユリカちゃんは天才だなあ」
「本当、本当」
「ユリカちゃんには国民栄誉賞を与えるべきだ」
「異議なし」
「あ、メグちゃん」
もぐもぐ。
「なーに、ミカッチ」
「ユリカは喋れないから。声帯には問題がないらしいんだけどね」
もぐもぐ。
「ミカッチ、それ、さっき、聞いた」
「あれ? そうだっけ?」
もぐもぐ。
「そんな訳でユリカは学校も行ったり行かなかったりなんだけど。でも、アタマいいんだよ。わたしの夏休みの宿題もユリカにやってもらったぐらいだし」
「ミカッチ、それはずるいぞ」
メグちゃんは顔をしかめた。
「そうだ、ずるいぞ」
ユミちゃんも尻馬に乗る。
「あっ、そう言うユミちゃんはわたしの宿題を写したんでしょ」
「あれれっ、そうでした」
「弓子、ずるいぞ」
「ずるいぞ」
「まったく、困ったもんだな」
カンナが後輩を憂える口調で言った。
「あたしの名前はカンナノリコ。鉋という字に定規の規。それで鉋規子だから、曲がった事は大嫌いなんだ。だから宿題というものは……うん? どうした、門野」
「先輩、これ、ユリカから預かってるんですけど」
「あ、カンナ、それ、物理のレポートじゃん。高校生が小学生に宿題やってもらっちゃ駄目じゃん」
「先輩、ずるいぞ」
「ずるいぞ」
「いや、だからさ、曲がった事は大嫌いだから、宿題なんぞという極悪非道なものは大嫌いなんだよ」
「その極悪非道なものを小学生に処理させる訳ですね」
「あははは。まあ、そうだね。でもな、出口恵よ、あたしの事をとやかく言ってる場合じゃないぞ。君は知らんようだが、『ユリカ・ルール』というものがあってだな。ユリカのアップルパイを食べた者は、エッチな話をするという決まりがあるんだ」
「え、そんなのあるの?」
「メグちゃん、ユリカちゃんはエロい話が大好きなんだよ」
「だからここは出口恵ちゃんのエロ話を披露しないと」
「しっかりアップルパイを食べたんだし」
「しかも2切れ」
「えー、そんなこと言われても。ミカッチ、本当にそういうルールが有るの?」
「いや、ルールはないけど。でも、ユリカがスケベな話が好きっていうのは本当」
「小学生のくせに」
「以前、キリハレル教団が中古のパソコンを寄付してもらった事があったんだけど。シスターがその内の一台をユリカにあげて、これで勉強しなさい、って言った訳。ただ、シスターはユリカのパソコンにチャイルド・ロックをかけるのを忘れちゃってさ。それでエッチな動画とか、ばんばん観まくってて……あれ、みんな、どうしたの、きょとんとした顔して」
「ねえ、ミカ、その、チャイニーズ・ロックって何なの?」
「チャイニーズ・ロックじゃなくて、チャイルド・ロック。ほら、あるでしょ、子供がやらしいサイトを見れなくするやつ」
「そんなのあるのか!」
「知らなかった」
「そんなのあったらエロい動画とか画像とか全然見れないじゃん」
「ミカッチのパソコンにはチャイルド・ロックってかかってるの」
「わたしのには、シスターがロックかけたけど」
「それでか。ミカって顔はかわいいのに色気が全然ないのは」
「道理でね」
「だいたい、パン食い競走で最速タイム更新なんて色気が無さ過ぎるぞ」
ユリカがキャッ、キャッ、キャッと笑った。
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