第二章 そういう魔法は困ります

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第二章 そういう魔法は困ります

 キリハレル教団は、世間の人からは新興宗教と思われているが、教団関係者によると、江戸時代が始まる少し前あたりが出発点で、九州北部が誕生の地らしい。  とすれば、踏み絵はどうしたんだ、という疑問が湧く訳だが、それについては、こんな事をして逃れた、あんな事をして生き延びた、と様々な伝説があるものの、実際、何をどうしたのかは分かっていない。  キリハレルというとキリスト、ハレルヤという言葉を連想するかもしれないが、ただ単に教団発祥の地が霧の多い所だったというだけだ。霧の中に隠れる様、切支丹禁令の江戸期をやり過ごした人達が作った宗教団体だ。  さて、段ボールの箱に入っていた赤ん坊(女の子)は結局乳児院に。キリハレル教団は今では乳児院、児童養護施設も運営しているのだ。ただし、施設というのは子供を育てる所であって、子供を捨てに来る所ではない。  シスター・ビアンカは哺乳瓶でミルクを与えている。 「いやあ、いい飲みっぷりですなあ」  人の好さそうな中年の警察官が言った。 「お巡りさん、それではこの子の親は見つからなかったと」 「はあ、まあそういうこってす」  シスター・ビアンカはがっかりした眼で警官を見た。 「なんせ最近では政府の方針で、予算の削減、人員の削減という訳でして、警察の方も手一杯で……」 「じゃあ、せめてこの子の名前を考えてあげて下さいな」 「そこはまあ、適当にパパっと」 「パパっとって、いい加減なのは困ります」 「門のところに居たんですから、『門野』ということで」 「カドノ?」 「で、下の方は、段ボールに書かれていた……」 「まさか『ミカ』にするとか?」 「門野ミカ、いいんじゃないでしょうか」  こういうのを安易という。
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