第二章 そういう魔法は困ります

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 とにもかくにも門野ミカと名付けられた少女はすくすくと育って学校にも通い出す。  その間、変わった事と言えば、キリハレル教団の中庭。ある年の春、赤い薔薇に交じって、青みがかった薔薇が二つ程咲いた事か。  本来、自然界には青い薔薇というのは存在しない。それが、特に何にも手を加えていないのに、青に近い色の花がぽつん、ぽつんと現れたのだ。もっともあっという間に散ってしまったが。  市役所の職員は、これは珍しい、これは奇跡だ、これを使って街おこしが出来ると算盤をはじいたが、シスター達の反応は違った。  神が奇跡を起こす事はまれに有りますが、それよりも人間が間違いを起こす事の方がはるかに多いのです。  シスター達は、何らかの原因で土壌が汚染され、それによる突然変異が起きたのでは、と考えたのである。  地元の大学が研究者を派遣した。で、結局解ったのは、土壌は汚染されてないという事だけ。何故、青い色の薔薇が咲いたのかは、更なる研究が必要、という次第となった。ついでに言うと、修道院の中庭は開放されているので、花が咲いていれば誰でも見る事が出来るのだが、先述の通り、すぐに散るから目撃した人は少ない。  何色だろうと花は花です。一生懸命咲いている花は皆大切です。神の下では平等です。  青い薔薇だからといって特別厳戒態勢がとられている訳ではない。  もう一つ変わった事と言えば、この国の経済格差がさらにさらに拡がった事か。  昔の子供は、友達から一緒にディズニーランドに行かない? と誘われたら、「行く」か「行かない」の二者択一だった。  それが今では、「行けない」と答える子が増えた。貧困層の増加というやつ。施設で暮らしているミカも、贅沢なんかはとてもとても。だが、キリハレル教団は、信者さえ良ければ、というところではない。子供の為の施設だけでなく、地域社会全体への貢献を心掛けている。故に時折寄付がある。ミカ達もみじめな暮らしはせずに済んでいる。  例えば明日は修道院の中庭で、生活困窮者の為の無料食堂が開かれる。そういう地道な活動をしているから世間の人からも、あそこはがんばってるね、と評価される。古着、古本、中古のパソコン。使わなくなった物が贈られる。バザーをやる。多少ゆとりのある人は、それだったらあそこの教団に、と言って物品を回してくれる。ミカもこの前、古着を上手くアレンジしていったらオシャレだねと褒められた。二つ年下のユリカも、絶版になって久しい貴重な本を手に入れて大喜び。そういう事もある訳だ。
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