第二章 そういう魔法は困ります

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 実は明日の無料食堂、ミカも楽しみにしている。ユリカがアップルパイを作ってくれる筈だから。何を隠そう、ミカはアップルパイに目がないのだ。 (ユリカの作るアップルパイって最高なんだよな。ほんと、あの甘い香りを嗅いだだけで幸せになっちゃうもんな)  今は放課後。校庭ではボールを蹴ったり、ハードルを飛び越えたり。クラブ活動で汗を流している。音楽室ではトランペットが高い音を出そうとして悪戦苦闘している。  ちなみにミカの通う学校は「文机学園」という。「フミヅクエ」ではなく、「フヅクエ」と「ミ」の入らない読み方が正式名称だ。学問に身を捧げる人物を育成する、というのが創立当初の目標だったのだが、現実には学問に身の入らない生徒ばかり、という愉快な学校だ。 (ユリカ、新しいレシピを試す時、前の日にパイを作って味見させてくれることもあるしな。今日も作って欲しいなあ)  門野ミカ、バラはバラでも、ケーキは別腹というタイプである。  そんな彼女が、涎が出そうになる口を押さえながら校門に向かっていると、 「危なーい!」  バァーンというすごい音。ミカは引っくり返りそうになった。何かが顔に直撃だ。 「ごめーん、だいじょうぶ?」  シュートを外したサッカー部員が大慌てで駆け寄った。 「信田、どこ蹴ってんだ!」 「ゴールネットを揺らさないで女の子を揺らしてどうすんだ!」  他のサッカー部員も初めは冗談口調だったが、ミカがその場にしゃがみこんでしまったので、さすがにふざけてる場合じゃないと気付いたらしい。 「おい、君、立てるか? いや、無理しなくていい……待て、待て、一旦、保健室に行ったほうがいいぞ……じゃあ、二人がかりで支えて……お前はこの子の鞄を」  ふらふらしながら保健室に行く。もっとも保健室は元気いっぱいの人が行くような所ではないが。 「あれぇ、カラスバネ先生いないねぇ」 「また森林公園に薬草採りに行ってるのかな」  烏羽根寧々子先生は苦学して東京魔術大学を卒業し、現在ここ文机学園に勤務している。大きな鍋に薬草を入れてかき混ぜて、煎じ薬などを作っているのは生徒達にとってはお馴染みの姿だ。ちょっとした切り傷、打ち身などは先生作の魔法が入った薬であっさりと治してしまう。あの魔女はいつか絶対、校長先生の為の毛生え薬を完成させるに違いない、とみんなは噂をしているのだ。校内では、「カラスバネネネコ」というよりも、「保健室の魔女」という方が通りがいい。
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