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「門野、空いてるベッドでしばらく休んでろよ」
サッカー部のキャプテンはミカにそう言うと、部員の信田を保健室の片隅に呼び寄せた。
「シノダ、彼女、誰だか知ってるよな」
キャプテンは声をひそめる。
「いえ、知りません。中等部の子ですよね」
「去年の体育祭、パン食い競走、ぶっちぎりで優勝したヤツがいただろ。名前は門野ミカ」
「ああ、あの子か」
「でな、うちのクラスに荒熊寅男ってのがいるんだが」
「高等部で一番大きい人ですか」
「あいつ、中学まではすごいいじめっ子だったんだ。ところがある日、小学生にぶん殴られてな。それでいじめをやめたって過去があるんだが……」
「小学生にですか?」
「その時の小学生が、門野ミカだ」
「……」
「だからシノダ、とにかく彼女にあやまれ。そしたらパンチ二、三発で済むと思う」
「えーっ!」
「じゃあ、俺達はグラウンドに戻る。あとはお前一人で殴られろ」
「そ、そんなー、先輩、俺を一人にしないでくださーい」
ミカの側に信田は取り残された。そして願った。ああ、はやくカラスバネ先生が戻って来てくれたら。
「あのぅ」
ミカが弱弱しい声をあげた。
「うわっ! ああ、きみ、起きちゃ駄目、起きちゃ駄目! 先生が戻って来るまでそのまま、そのまま!」
あわてふためいて、信田はミカに向かって言った。
「えーと、わたし、顔に何かぶつかったんですよね?」
「はい、そうです。すんません。俺が蹴ったボールがきみに命中して」
「はぁ、ボールが」
「でね。ボールを蹴った時に俺の靴が脱げちゃってね。それもきみの顔に……」
「はぁっ?」
「怒らないで、怒らないで。いや、ほんとに申し訳ない。そうです、全部俺が悪いんです。反省してます。くそっ、国会議員なら一から十まで秘書のせいにできるのに。あっ、ちょっと、寝てた方がいいって」
「わたし、鏡を見たいんです。そこの壁の」
立ち上がって壁際の鏡を見ると、真っ赤に腫れあがったほっぺたがそこに。無残なり。
「うわっ、ひどい」
あまりのひどさに目眩がした。ふらっとした彼女の体をすばやく信田は支える。
「あーん、ほんとにごめんなさい。だから俺を殴るのは勘弁して。パンチ二、三発じゃなくて、せめて一発にお願い! あれ? 気絶しちゃった? おーい、しっかりしろぉ」
「何だ、何だ、騒がしいぞ」
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