第二章 そういう魔法は困ります

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 保健室の扉を開けて年齢不詳の美女が入って来た。若くて美人という女性はまあ、いないでもない。が、若くはない筈なのに美人と言われるひとはとっても稀少だ。それが烏羽根寧々子先生。ただしもともと造作が整っているのか、何かの魔法に依るものなのか、それは不明。 「先生、どこ行ってたんですか」 「どこ行ってたんですかじゃないよ。保健室はいちゃいちゃするとこじゃないよ。廊下まで聞こえたぞ。寝ようとか、秘所がどうとか、一発お願いとか。スケベ、スケベ」 「先生、それは誤解です」 「女の子と抱き合ってて誤解も何もないもんだ。まったく、私に言ってくれればかわいがってやるものを」  烏羽根先生はジョークの好きな先生である。 「先生、冗談言ってる場合じゃないっす。彼女気絶しちゃったみたいで……」 「ほおっ、君はなかなかすごいモノをお持ちのようだね」 「ふざけてないでなんとかしてください」 「泣かなくてもいい。よし、ベッドに寝かせろ、ベッドに寝かせろ。で、何があったんだ」 「はい、あの、シュートが外れて靴が脱げてパン食い競走がぶっちぎりでパンチ二、三発をせめて一発にと」 「何だかちっとも判らん。最初からきちんと話してみろ。……ふむふむ、それで顔がこうなったと……まあ、女の子が自分の顔がこんな風になったら、そりゃ、びっくりするわな。でも、これなら一晩で治るけどな」  どれどれ、と烏羽根先生、あらためてミカに顔を近付ける。そうしているうち、だんだん渋い表情に変わり、憤慨した顔になり、信田を睨み付けた後、小さな声でゴニョゴニョと何か呟き出した。 「先生、何やってるんですか」  烏羽根先生は険しい目付きで答えた。 「君、どさくさまぎれにやっぱりこの子にやらしいことしたな。見たまえ、彼女を。涎を垂らしながらオッパイと言ってるではないか」 「……よだれをたらしながらアップルパイって言ってますけど」 「あれ? 本当だ。してみると呪文をまずったかな」 「ちょっと先生、何の魔法をかけたんですか!?」 「いやぁ……てっきり君がやらしいことしたと思ったんで、彼女が目を覚ましたら、魔法のスイッチが入って、君を二、三十発ぶん殴る、という呪文をだね」 「そういう呪文はなしにして下さい!」 「君がパンチ二、三発とか言ってたから、増幅の魔法を使ってみたんだ。それが二、三十発。一度この魔法を使ってみたいと思ってたんだ」 「ここで初めての魔法を使わなくてもいいじゃないですか。あっ、彼女、目を覚ましそうですよ。パンチ二、三十発は勘弁です」 「あ、あ、慌てるな。待て待て、そうだ、目が覚めたら平和な気分になるような魔法をかければいいんだな。いや、待てよ、先にかけた呪文を解いてからだったか。えーと、解除呪文、解除呪文は」 「先生、早くして下さい!」 「せかすな!」 「彼女、起きちゃいます!」 「待てと言ってるだろ……」  寧々子先生、再びぶつぶつと呟きはじめた。ぶつぶつが終わるか終わらないかの内に、 「ん? わたし、どうしちゃったんだろ」  ミカは目を覚まし信田は青ざめた。と、その時。
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